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36協定の落とし穴|「免罰的効力」を知らない経営者が陥る刑事罰リスクと適正な締結手続きの全貌(2026.2.28)

【詳細版】36協定の落とし穴|「免罰的効力」を知らない経営者が陥る刑事罰リスクと適正な締結手続きの全貌

 

 

36協定さえ結べば、残業させても問題ない」――この認識は半分は正解で、半分不正解です。

 

協定の届出が受理された瞬間からしか効力が発生しない、過半数代表者の選出ミスで協定そのものが無効になる、特別条項の発動には要件がある――こうした落とし穴を知らないまま運用している企業は少なくありません。

本記事では、社会保険労務士が法律の条文レベルから、実務上の注意点まで解説します。経営者の方、人事・労務担当者の方はぜひ最後までお読みください。

 

< 目次>

1. 36協定とは何か|法律上の正確な定義と「免罰的効力」

2. 時間外労働の上限規制全体像|2019年法改正の意味

3. 2024年問題|建設業・運送業・医師の特例規制

4. 36協定の締結手続き|過半数代表者選出の落とし穴

5. 届出のルール|事業場単位の原則と「空白期間」リスク

6. 特別条項を使う場合の健康確保措置の義務

7. 電子申請(e-Gov)の手順と注意点

8. 36協定に違反するとどうなるか|罰則・是正勧告

9. まとめ

 

 

1. 36協定とは何か|法律上の正確な定義と「免罰的効力」

 

 労働基準法では、労働時間は原則として、1⽇8時間・1週40時間以内とされています。

これを「法定労働時間」といいます。また、休⽇は原則として、毎週少なくとも1回与えることとされています。法定労働時間を超えて労働者に時間外労働をさせる場合や法定休⽇に労働させる場合には、労働基準法第36条に基づく労使協定(36(サブロク)協定)の締結し所轄労働基準監督署⻑への届出が必要となります。

この規定に違反すれば、使用者は刑事罰(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)の対象となります。

 

36協定(労働基準法第36条に基づく労使協定)の本質的な効力は、この刑罰を免除する「免罰的効力」にあります。つまり、36協定は「残業を許可する書類」ではなく、「本来は刑事罰の対象となる行為について、一定の手続きを条件に罰則を免除する」ものです。

 

⚠️ 届出が受理された瞬間に効力が発生します。遡及適用は一切認められません。

 

なぜ「36協定」と呼ばれるのか

 

36協定」という通称は、根拠法令である労働基準法「第36条」に由来します。正式名称は「時間外労働・休日労働に関する協定届」です。

 

33条(災害時)との違い

 

労働基準法第33条は、災害・緊急事態が発生した際に、届出なく時間外・休日労働を命じることができる特例です。一方、第36条(36協定)は平常時における時間外・休日労働を可能にするための手続きであり、両者は明確に区別されます。

 

 

 

2. 時間外労働の上限規制全体像|2019年法改正の意味

 

 2019年改正で「大臣指針」から「法律」へ格上げ

 

20194月施行(中小企業は20204月)の働き方改革関連法により、時間外労働の上限規制は「厚生労働大臣の指針」から「法律」へと格上げされました。これにより、上限を超えた場合は即座に刑事罰の対象となります。

 

【一般条項】原則の上限時間

 

| 区分                    | 月の上限 | 年の上限 |

| 通常の労働時間制              | 45時間  | 360時間 |

| 1年単位の変形労働時間制(対象期間3ヶ月超) | 42時間 | 320時間 |

 

特別条項とは?発動できる「臨時的な事情」

 

業務の都合上、一般条項の上限を超えなければならない場合に用いるのが「特別条項」です。ただし、特別条項を発動できる事情は「臨時的な特別の事情」に限られます。

 

認められる例:決算・予算業務、ボーナス商戦、大規模クレーム対応、機械故障への緊急対応

認められない例:恒常的な人手不足、予測可能な通常の繁忙期

 

発動に際しては、協定に定めた手続き(通知・協議等)を実際に超える前に踏む必要があります。

 

【絶対的上限】いかなる協定を結んでも超えられない数値

 

| 上限の種類 | 数値  | 休日労働の扱い |

| 単月の絶対的上限  | 100時間未満  | 含む    |

| 26ヶ月の平均上限 | 80時間以内   | 含む   |

| 特別条項の年間上限 | 720時間以内  | 含まない  |

| 特別条項の適用回数 | 6回以内   |   ―   |

 

⚠️ 「休日労働を含むか否か」の計算ミスが是正勧告の典型事例です。絶対的上限(単月・複数月平均)は休日労働を含めて計算してください。

 


 

3. 2024年問題|建設業・運送業・医師の特例規制【最新情報】

 

これまで上限規制の適用が猶予されていた業種について、202441日より特例ルールが適用開始となりました。いわゆる「2024年問題」です。

 

建設業|原則適用+「災害復旧・復興」の適用除外

 

建設業には20244月より一般の上限規制が原則適用されます。ただし「災害の復旧・復興の事業」については、単月100時間未満および26ヶ月平均80時間以内の規制が適用除外となります(その他の絶対的上限は適用)。

 

自動車運転業務(運送業)|年960時間上限+改善基準告示

 

運送業の時間外労働の上限は年960時間です。ただし、36協定上の数字だけでは運用できず、改善基準告示(拘束時間・休息期間)との整合性確認が必須となります。実務上は36協定と改善基準告示の両方を並行して管理する必要があります。

 

医師|ABC水準の違いと上限時間

 

| 水準  | 対象      | 年間上限   | 月の上限 |

| A水準 | 一般的な勤務医 | 960時間    | 100時間未満 |

| B水準 | 地域医療確保に必要な医師   | 1,860時間 | 100時間未満|

| C水準 | 研修医・技能取得に必要な医師 | 1,860時間 | 100時間未満|

 

 

4. 36協定の締結手続き|「過半数代表者」選出の落とし穴

 

実務上、最も多くの是正勧告を受けるのが「過半数代表者の選出不備」です。選出に問題があると協定そのものが無効になり、過去の残業すべてが違法状態に陥るリスクがあります。

 

過半数代表者の3つの適格要件(施行規則第6条の2

 

・①管理監督者でないこと|法第41条第2号に規定する「監督若しくは管理の地位にある者」は代表者になれません

・②民主的な選出方法であること|投票・挙手・持ち回り決議など、労働者の自由な意思による選出が必要です

・③選出目的の明示|「36協定の締結のために選出する」ことを労働者に明示しなければなりません

 

よくあるNG事例

 

会社(使用者)側が一方的に指名する

親睦会や社員会の会長を自動的に充てる

管理職(部長・課長)を代表者に選出する

「選出目的」を伝えずに署名・捺印だけさせる

 

⚠️ 上記のような選出方法では協定が無効となり、過去にさかのぼって全残業代未払い・法違反の状態が発生します。

 

協定が無効になるとどうなるか

 

過半数代表者の選出が無効と判断された場合、36協定は締結当初から効力がなかったものとして扱われます。これにより、協定締結以降の時間外労働がすべて法違反となり、残業代の遡及支払い・罰則・是正勧告・書類送検のリスクが生じます。

 

 

 

5. 届出のルール|事業場単位の原則と「空白期間」リスク

 

事業場ごとに届出が必要

 

36協定は原則として「事業場単位」で締結・届出を行います。本社・支店・工場それぞれが別の事業場である場合、各事業場で届出が必要です。ただし、以下の要件を満たす場合は本社一括届出が認められます。

 

・協定の内容が同一であること

・各事業場の過半数代表者が同一内容に同意していること

 

「空白期間」に注意|起算日のミス

 

1年単位で締結・更新する36協定において、起算日の設定ミスにより数日間「無協定状態」が生じるケースが是正指導の典型事例です。前年度の協定終了日と新年度の協定開始日に空白が生じないよう、更新手続きは余裕を持って行ってください。

 

⚠️ 協定の有効期間は原則「1年間」です。期間満了前に更新手続きを完了させましょう。

 

 

 

 6. 特別条項を使う場合の「健康確保措置」の義務

 

特別条項付き36協定を締結する場合、法第36条第2項第4号に基づき、健康確保措置を協定に明記し、かつ実施しなければなりません。

 

選択できる4つの措置

 

・①勤務間インターバルの導入(終業から次の始業まで11時間以上の確保を推奨)

・②医師による面接指導(月80時間超の時間外労働が見込まれる労働者を対象)

・③代替休暇の付与(特別条項適用月の翌月または翌々月に取得)

・④深夜業の回数制限(月に一定回数以上の深夜業を禁止)

 

「形式的な措置」は是正指導の対象

 

健康確保措置は「協定に書いてあれば良い」ものではありません。実際に実施した記録(勤怠ログ、面接指導記録、インターバル管理記録等)を保存しておくことが、監督調査(臨検)への対応として不可欠です。

 

 

 

7. 電子申請(e-Gov)の手順と注意点

 

時間外労働や休日出勤に関して36協定を結んだあとは、労働基準監督署への提出が必要となります。協定を締結しただけで、届出を行わないと36協定が有効にはならないので、忘れずに届出しましょう。36協定の提出方法は、以下の3つです。

・窓口提出

・郵送・・・・36協定は、投函日ではなく受理された日から有効となります。

・電子申請

 

(1)36協定届を電子申請する手順を説明いたします。届出は以下の3つのステップでできますので、ぜひ実践してみましょう。

e-Govの提出用アカウントを取得する

 GビズIDMicrosoftアカウントを持っている場合は、それらのIDを利用することも可能です。e-Govアカウントを取得する場合は、仮登録でメールアドレスを入力すると、そのアドレスに本登録の案内メールが届きます。そのメール内のURLにアクセスし、ログインに使用するパスワードを入力すれば本登録は完了です。

 

・アプリケーションをインストールする

申請に使用するPCOSに合わせたものをインストールしてください。アプリのインストール前に、必要に応じてポップアップロック解除などブラウザの設定を行います

36協定届を電子申請する

 

20214月の省令改正により、36協定届の電子申請においては使用者および労働者代表の押印・署名・電子証明書の添付が不要となりました。チェックボックスによる確認方式で申請可能です。

また、労働条件ポータルサイト「確かめよう労働条件」から電子申請ができるようになりました。従前のe-Govからの電子申請と比較して、内容の異なる協定等の一括届出機能や本社一括届出のCSVファイル自動作成機能、届出先の労働基準監督署の自動選択機能、次回届出時のリマインド・複写機能等が追加され、さらに便利に電子申請を行うことが可能になりましたので、ご自分で電子申請をされる経営者やご担当の方は是非確認されてください。

 

 

36協定の電子申請における3つのメリット

・郵送の手間やコストがかからない

・窓口の受付時間を気にせずに申請できる

 

36協定の電子申請における3つのデメリット

・申請時の添削がないためミスが発生しやすい

・申請してもすぐには受理されない

・返戻の場合は未締結期間が発生する

 

(2)周知義務は引き続き必須(法第106条)

 

電子申請で届出を完了しても、周知義務は免除されません。以下のいずれかの方法で全労働者に周知する必要があります。

・各作業場の見やすい場所への掲示

・書面の交付

・全労働者がアクセス可能な社内ネットワーク上への保存

 

 

 

8. 36協定に違反するとどうなるか|罰則・是正勧告・社会的リスク

 

1)刑事罰(法第119条)

36協定なしに時間外労働・休日労働をさせた場合、または絶対的上限を超えた場合の罰則は「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」です。行為者(直属の上司等)だけでなく、法人にも同額の罰金刑が科される「両罰規定」が適用されます。

 

2)労働基準監督署の臨検(監督調査)

労働基準監督署による監督調査(臨検)では、36協定の内容・届出状況・実際の労働時間との整合性が確認されます。違反が認められた場合は是正勧告書が交付され、期限内に是正しなければ書類送検に至るケースもあります。

 

3)社会的リスク|企業ブランドへのダメージ

書類送検の事実は公表されることがあり、採用活動・取引先との関係・企業ブランドへの深刻なダメージにつながります。36協定の適正運用は法令遵守にとどまらず、企業のリスク管理・人材定着・労働生産性向上に直結します。

 

 

 

 9. まとめ|36協定の適正運用が企業を守る

 

36協定は、正しく締結・届出・運用することで初めてその効力を持ちます。本記事でご紹介した主なポイントをまとめます。

 

| ポイント   | 内容                           |

| 法的性質   | 免罰的効力。届出受理の翌日から効力発生(遡及不可)    |

| 原則上限   | 45時間・年360時間(変形制は月42時間・年320時間)  |

| 絶対的上限  | 単月100時間未満・複数月平均80時間以内(休日労働含む) |

| 代表者選出  | 指名・自動充当はNG。民主的選出+目的明示が必須     |

| 届出単位   | 事業場ごと(要件を満たせば本社一括も可        ) |

| 2024年問題  | 建設・運送・医師に特例ルール適用開始           |

| 健康確保措置 | 特別条項使用時は実施+記録の保存が必須          |

| 罰則     | 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金(両罰規定あり)  |

 

36協定の適正な運用は、単なる法令遵守にとどまらず、従業員の健康確保、離職率の低下、企業ブランドの維持、そして労働生産性の向上に寄与します。「届け出ているから大丈夫」と思っていても、選出手続きや更新管理に問題が潜んでいるケースは珍しくありません。ご不安な点がある場合は、社会保険労務士にお気軽にご相談ください。

 

 

 

 

 

 

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