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【就業規則『10人未満』の落とし穴】|『作らなくていい』という誤解が招く『経営危機』の正体(2026.3.3)

「就業規則『10人未満』の落とし穴|『作らなくていい』という誤解が招く『経営危機』の正体」

 

「うちは従業員が10人未満だから、就業規則なんて関係ない」——そんなふうに考えていませんか? 確かに、労働基準法第89条は常時10人以上の労働者を使用する事業場にのみ就業規則の作成・届出を義務付けています。しかし、この「作成・届出義務がない」という事実を「作らなくていい」と解釈することは、労務管理における最大の落とし穴になります。本記事では、小規模事業場が就業規則を整備することの意義とメリットを、詳しく解説します。

 

 

1章 就業規則とは何か:法的性質と基本的な仕組み

 

就業規則とは、使用者(会社)が労働者の就労に関するルールを統一的に定めた規則類の総称です。始業・終業時刻や賃金の決め方、休日・休暇制度、さらには懲戒処分の手続きに至るまで、職場における「共通のルール」を文書化したものといえます。

 その法的性格について、最高裁判所は秋北バス事件(昭和43年)において、就業規則が、合理的な労働条件等を定めているものである限り、一種の「法的規範」としての性質を持つと認定しました。つまり、就業規則は単なる社内文書ではなく、個別の雇用契約と同等あるいはそれ以上の法的効力を持ちうるのです。この強力な効力の裏付けとして、労働基準法は作成・届出・意見聴取・周知という4つの義務を使用者に課しています。

 

<「常時10人以上」の判定基準と注意点>

 法的な作成義務の有無を決める「常時10人以上」という基準は、一見シンプルに見えて実務上は判断に迷うケースが少なくありません。

 まず重要なのは、カウントの単位が「企業」ではなく「事業場」であるという点です。本社・支店・店舗といった場所ごとに個別に人数を数えるのが原則です。そのため、会社全体で50人を雇用していても、各拠点が10人未満であれば、各拠点単位では作成義務が生じないことになります。ただし、業務や人事管理が完全に本部に統合されており、出張所や支所など独立の事業場として認められない場合には、上位組織と合算して一つの事業場とみなされることがあるため注意が必要です。

 また、「常時」とは通常の運営状態で継続的に10人以上の状態にあることを意味します。繁忙期だけ一時的にアルバイトを増員して10人を超えても、それは「常時」とはみなされません。逆に、定員10人の職場で退職者が出て一時的に9人になっても、すぐに補充募集をしている場合は「常時10人以上」の状態が継続していると判断されます。

さらに、パートタイマーや有期契約社員、在籍出向者も人数のカウント対象に含まれます。一方で、派遣労働者(派遣元でカウント)、業務委託のフリーランス、法人役員は原則として除外されます。

 

 

2章 就業規則に関する4つの法的義務

 常時10人以上の労働者を使用する事業場では、以下の4つの義務を履行しなければなりません。これらは相互に関連しており、一つでも欠けると就業規則の法的な完成度が損なわれます。

  

作成義務:記載すべき3つのカテゴリ

就業規則に盛り込む内容は、法令上3つのカテゴリに分類されます。

 

【絶対的必要記載事項】は、いかなる事業場でも必ず記載しなければならない項目です。始業・終業時刻、休憩・休日・休暇、賃金の決定・計算・支払方法、昇給、退職(解雇の事由を含む)がこれにあたります。これらを欠いた就業規則は法令違反として是正勧告の対象となります。

 

【相対的必要記載事項】は、当該事業場に制度として存在する場合にのみ記載が義務付けられるものです。退職手当、賞与、食費・作業用品の負担、安全衛生、職業訓練、災害補償、表彰・制裁(懲戒)などが含まれます。特に懲戒規定は、「あらかじめ就業規則に規定されていなければ、労働者を懲戒することはできない」という原則があるため。

 

【任意的記載事項】 は法令上の義務はないものの、組織運営の円滑化のために付け加える項目です。企業理念や行動指針、適用除外範囲の規定などが該当します。

 

 

 意見聴取義務:労働者代表の適正な選出

就業規則の作成・変更に際しては、労働基準法第90条に基づき、労働者代表からの意見を聴取することが義務付けられています。

 

過半数労働組合がない場合、労働者の過半数を代表する者を選出する必要がありますが、この選出プロセスには厳格な要件が課されます。投票・挙手・話し合いなど民主的な方法で選ぶこと、管理監督者を代表者にしないこと、就業規則の意見聴取を目的として選ぶことを全労働者に周知した上で手続きを行うことが必須です。使用者が特定の人物を指名する形での「任命」は無効とされます。

意見書の内容は同意でなくても構いません。反対意見が記されていても届出は可能です。ただし、反対意見が出た背景を真摯に受け止め、協議の記録を残しておくことが、将来の労働紛争に備える上で重要です。

 

 では従業員数が10人未満の場合には、この就業規則についての意見聴取義務はあるのでしょうか?これについては、労基法第89条の作成・届出義務を前提とした文言となっているため、作成・届出義務が課されていない使用者には適用が無いものと解されております。(厚生労働省労基法コンメンタール下巻等)

 

 届出義務:デジタル化が進む行政手続き

 作成または変更した就業規則は、意見書を添付して所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。怠った場合は30万円以下の罰金(刑事罰)の対象となる場合があります。

 近年、e-Govを通じた電子申請が普及し、複数拠点を持つ企業では「本社一括届出制度」の活用が広がっています。ただし、この制度を使うには各事業場の就業規則の内容が同一であること、各事業場の労働者代表から個別に意見を聴取していることという条件を満たす必要があります。また、20214月からは届出書・意見書への署名・押印が原則不要となり、完全オンラインでの手続きが可能となっています。

 

 周知義務:最も見落とされやすく、最も重要な義務

 4つの義務の中で、企業にとって最も致命的なリスクをもたらしかねないのが「周知義務」です。労働基準法第106条は、労働者がいつでも就業規則の内容を確認できる状態に置くことを義務付けています。

 周知の方法として認められているのは、職場の見やすい場所への掲示または備え付け、書面の交付、イントラネットへの掲載(労働者が常時確認できる端末が必要)の3種類です。

 最高裁判所はフジ興産事件(平成151010日判決)において、「就業規則が法的規範としての拘束力を生ずるためには、その内容を当該事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する」と明示しました。つまり、内容が合理的であっても、届出が完了していても、労働者が知り得ない状態であれば、就業規則を根拠として懲戒処分を行ったり、特定の労働条件を適用したりすることは法的に不可能となるのです。

 

  

3章 10人未満でも就業規則が必要な理由

 従業員が10人未満であれば作成義務はありません。しかし、それを「作らなくていい」理由にしてしまうと、実務上さまざまなリスクを招くことになります。小規模な組織ほど、一人の従業員とのトラブルが事業継続に致命的な影響を及ぼしやすいからこそ、早期にルールを明文化しておくことが経営の防衛策として機能します。

 <懲戒処分・解雇を巡る対応>

日本の労働法制は労働者保護の傾向が強く、解雇については労働契約法第16条(解雇権濫用法理)により「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が厳格に求められます。

 さらに重要なのが懲戒処分に関するルールです。減給・出勤停止・懲戒解雇といった処分を行うためには、あらかじめ就業規則にその事由と種類が定められていることが前提条件となります。就業規則という根拠規定なしに行った懲戒処分は「根拠なき制裁」とみなされ、無効とされる可能性が極めて高いのです。


 裁判で不当解雇と認定されれば、解雇期間中の賃金の遡及支払(バックペイ)を命じられるだけでなく、職場復帰を認めざるを得ない状況に追い込まれる可能性もあります。就業規則を整備するコストは、こうした紛争対応コストと比較すれば極めて小さなものです。

 

<労働条件の「共通化」で人事管理を効率化>

就業規則がない場合、労働条件は個別の雇用契約によってのみ決まります。従業員が増えるにつれ、一人ひとりと条件交渉し管理することは煩雑を極めます。就業規則を策定して適切に周知すれば、労働契約法第7条に基づき、個別の合意を待たずとも共通の労働条件として機能します。

 

「あの人はこうなのに、なぜ私は違うのか」という従業員間の不満を抑制し、統一的な人事管理が可能になります。特に採用が増える成長フェーズの企業においては、早期に就業規則を整備しておくことが組織の安定に直結します。

 

<雇用関係助成金の受給資格>

多くの雇用関係助成金(キャリアアップ助成金・育児復帰支援・人材確保等)は、申請要件として「就業規則に所定の規定があること」および「その規則が労働基準監督署に届け出されていること」を求めています。10人未満であれば届出義務はありませんが、助成金申請の際には届出の受領通知が実質的に必要となるため、任意での届出が事実上の必須条件となっています。事前に制度内容を確認し不明な点は確認願います。

 

<採用力・外部信頼性の向上>

金融機関からの融資審査、IPO(新規株式公開)を目指すプロセス、あるいは大手企業との新規取引にあたっても、コンプライアンス体制の指標として就業規則の有無とその内容が確認されることは珍しくありません。「ルールが整備された信頼できる会社」としてのブランディングは、採用活動においても大きな強みとなります。

 

  

4章 時代にあった働き方に対応する就業規則の高度化

 

就業規則は作成して終わりではありません。テレワークの普及や副業解禁など、急速に変化する労働環境に対応するために、継続的なアップデートが求められます。

 <テレワーク規定の必要性>

 テレワーク(在宅勤務)を導入するなら、就業規則またはテレワーク規程に以下の事項を定めておくことが不可欠です。対象者の要件と許可手続き、通信費・光熱費などの費用負担の明確化(定額の「在宅勤務手当」支給が実務的には主流)、中抜け時間の扱いや残業の事前承認制を含む労働時間の管理方法、そしてメンタルヘルスへの配慮が主な項目です。これらを明記しておかないと、「費用は誰が負担するのか」「中抜けは休憩なのか」といった些細なトラブルが労働紛争に発展するリスクがあります。

 

<副業・兼業の容認と企業利益の保護>

「モデル就業規則」改定以降、副業は原則容認の方向にシフトしています。しかし、企業側が無制限に副業を認めることはリスクを伴います。実務上は届出制または許可制を維持しつつ、以下の制限事由を明記しておくことが推奨されます。本業の労務提供に支障が生じる場合(過労による健康被害を含む)、会社のノウハウや顧客情報が副業先で利用される恐れがある場合(秘密保持義務違反)、競合他社での就業や競合事業の立ち上げ(競業避止義務違反)、反社会的行為や会社のブランド価値を著しく損なう活動(誠実義務・信用失墜)の4点です。

 

副業に関する規定では、副業先の届出フロー、労働時間の自己申告義務、秘密保持・競業避止の誓約、安全配慮に関する遵守事項を明確に定めることで、会社・労働者双方にとって透明性のある就業環境を整えることができます。

 

 

5章 20252027年の法改正と就業規則の適時アップデート

 

就業規則は一度作成すれば終わりではありません。頻繁に行われる法改正に対応できていないと、規則が「無効」と判断されたり、行政指導の対象となったりするリスクがあります。


<直近の主要改正ポイント>

 20254月に向けて企業が特に対応を迫られているのは、育児・介護休業法の改正と高年齢者雇用安定法の完全義務化です。育児・介護休業法の改正では、3歳未満の子を持つ労働者へのテレワーク等の柔軟な働き方の提供が努力義務化され、子の看護休暇の対象範囲も拡大されます。また、65歳までの継続雇用については、対象者選定基準の特例が廃止され、希望者全員の雇用確保が義務となるため、定年規定・再雇用規定の再点検が不可欠です。

 

<今後の労働基準法大改正案の動向>

現在、労働政策審議会(労働条件分科会)などにおいて議論されている大改正案は、今後の就業規則の在り方を根本から変える可能性があります。勤務間インターバル制度の義務化(終業から次の始業まで原則11時間の休息確保)、事実上「連続14日以上の勤務」を禁止する連続勤務の上限規制、有給休暇算定方式の「通常賃金方式」への一本化(現行の平均賃金方式等との選択制からの変更検討)、そして本業・副業の時間通算義務撤廃の検討など、いずれも企業の実務に直結する内容です。これらの改正が施行された際、対応が遅れると就業規則の規定が法令違反となるリスクがあります。定期的な見直しと専門家との連携体制の構築が、中長期的な企業経営において不可欠な要素となっています。

 

  

6章 就業規則作成・届出に関するQ&A

Q1. 「常時10 人以上の労働者を使用する」とは、常時10 人以上が出勤しているということでしょうか?

A 雇用形態に関係なく、雇用(所属)している労働者が常態として10 名以上いることであり、出勤している人数ではありません。

 

Q2. 「常時10 人以上」であることは、どのように判断するのでしょうか?

A ひとつの事業場に常態として10 人以上の労働者が雇用(所属)されているかどうか

で判断します。「常時10 人以上」に該当しない場合としては、期間の定めのある労働者を一時的に雇い入れた結果10 名を超えたが、当該期間の定めのある労働者の契約期間が満了すればまた10 人未満に戻るような場合などが考えられます。

 

Q3. 複数の営業所があり、各営業所はそれぞれ常時10 人未満でありますが、会社全体としては常時10 人以上になる場合、就業規則の作成・届出は必要か。

A 就業規則の作成・届出義務は「事業場」単位で考えます。

事業場は場所的観念によって判断される概念であって、いわゆる経営上一体をなす工場、支店等を総合した全事業を指すのではありません。

したがって、場所的に独立した営業所は原則として事業場とみなされることから、当該営業所で常時10 人未満の労働者を使用している場合は、当該営業所単位では就業規則の作成・届出の義務はありません。

しかし、法令上の義務がない場合でも、働く上でのルールである就業規則を作成することが望ましいことは言うまでもありません。

 

Q4. 複数の営業所があるが、すべて共通の就業規則を適用しているため、本社の所在地を管轄する労働基準監督署へ、「本社一括届出」として届出すれば全営業所分を届けたことになるのでしょうか?

A 就業規則は事業場単位の届出が原則です。したがって、共通の就業規則でも原則として事業場と判断される営業所ごとに当該営業所の所在地を管轄する労働基準監督署へ届出しなければなりません。また、一定の要件を満たせば、本社で一括して各営業所分を届出ることはできますが、所定の届出方法による必要があります

 

Q5. 就業規則の変更について、数年に1回、その間の変更内容をまとめて届出することは可能でしょうか?

A 就業規則の変更については、その都度遅滞なく所轄労働基準監督署長へ届出ていただくことが必要ですので、一定期間分をまとめて届出することはできません。

 

 

まとめ:就業規則は「守り」と「攻め」の経営ツール

 

就業規則における4つの義務(作成・届出・意見聴取・周知)は、単なる法的チェックリストではなく、企業のコンプライアンス経営の基盤です。特に「周知」という手続きが民事上の有効性を決定づけるという判例法理は、すべての経営者と人事担当者が肝に銘じるべき事実です。

 

10人未満の事業場においても、「作成義務がないから放置する」という選択は、無防備な状態で労働市場の荒波に乗り出すことに等しいといえます。懲戒規定の不備による不当解雇リスク、助成金受給機会の損失、不明確な労働条件による人材流出——こうしたコストは、就業規則を整備するコストをはるかに上回ります。10人未満の事業場についても可能な限り事業場にあった就業規則を作成し、意見聴取、届出、周知等を行ったうえで就業規則を管理していくことが企業にとっても得策であるものと考えます。

 

これからの時代、就業規則は「労働者を縛るための道具」ではなく、「会社と労働者が信頼関係を築き、共に成長するための共通言語」として機能するものでなければなりません。テレワークや副業といった新しい働き方を包含し、今後の大規模な法改正にも柔軟に対応し続けるために、専門家と連携した定期的なメンテナンス体制の構築こそが、持続可能な企業運営の鍵となります。

 

適切な就業規則は、従業員の権利を保護し、公平な労働環境を作り出すだけでなく、企業の生産性向上や人材確保にもつながります。是非、社労士等の専門知識を活用することで、あなたの企業に最適な就業規則を作成し、健全な労使関係を構築していってください。

 

 

 

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