【完全版】年に一度の恐怖「算定基礎届」…その金額で大丈夫?|社長を守る労務管理の教科書(2026.1.26)
【完全版】年に一度の恐怖「算定基礎届」…その金額で大丈夫?|社長を守る労務管理の教科書
1. はじめに:なぜ「算定基礎届」は恐怖の通知なのか
毎年6月中旬頃から会社に届く一通の通知。正式名称を「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届」といいます。私たちはこれを、親愛を込めて、あるいは警戒を込めて「算定」と呼びます。
なぜこれが「恐怖の通知」なのか。それは、この一枚の書類に書き込む数字が、会社と従業員がこれから一年間に支払う「社会保険料」の総額を決定してしまうからです。
もし記載を誤れば、会社の負担が増え、従業員から不満が出て、最悪の場合は年金事務所の調査へと繋がります。また社会保険料は所得税の計算にも関わるため、計算を間違えれば「年末調整」についても訂正しなければならない事態になります。
算定基礎届は単なる事務作業ではなく、経営のリスク管理に直結する、年に一度の「審判」とも言えるものなのです。
2. 算定基礎届(定時決定)の本質:それは「社会保険の定期健診」
社会保険料は、本来、月々の給与額に応じて変動すれば良いのかも知れません。しかし、それを毎月行うのは現実的ではありません。そこで年に一度、全員の報酬をチェックして「標準報酬月額」を見直すのがこの「定時決定」です。これは「社会保険の定期健診」と定義しても良いと思います。
健診の役割: 実際の給与と、登録されている保険料のズレを正して公平に負担します。
反映の重み: ここで決まった「等級」は、将来の年金額や、病気で休んだ際の傷病手当金の額に直結します。社員の人生を守る大切な数字を扱うという意識が、会社にとっては大切なのです。
3. 【基本ルール】提出期限と対象者
算定基礎届(定時決定)とは、7月1日現在在籍しているすべての被保険者について、4月・5月・6月に支払った報酬を届け出ることにより、その年の9月から翌年8月までの標準報酬月額を決定する手続きです。
正確な届出を行うことは、会社のコスト管理であると同時に、社員の生活と未来を守る「経営者の責任」そのものです。
(1)提出期限:遅れると「調査」のリスクも
令和7年度の提出期間は、原則として7月1日(火)から7月10日(木)までです。 管轄の事務センターへの郵送、電子申請、または年金事務所窓口への提出が可能です(日本年金機構は「電子申請」を推奨しています)。
【注意】「忘れていた」では済まされません 「担当者が忙しかった」「社長一人で手が回らなかった」という理由は通用しません。提出が遅れると保険料が決定できず給与計算がパニックになるだけでなく、「労務管理がズサンな会社」というサインになり、年金事務所による強制的な調査を招くきっかけになります。
(2)提出の対象となる人・ならない人
ここが最も多くの「魔」が差すポイントです。「去年と同じでいいだろう」という判断は、追徴金への近道です。
<対象となる人>
・原則として、7月1日現在の「すべての被保険者」が対象です。
・5月31日までに資格取得し、7月1日現在在職中の全社員(パート・役員含む)。
・7月1日以降に退職する社員も、7月1日に在籍していれば対象です。
<対象外となる人>
以下のいずれかに該当する方は提出不要です。
・6月1日以降に資格取得した方(取得時の額が適用されます)。
・7月に月額変更届(随時改定)を提出する方。
・8月または9月に随時改定等が予定されている旨の申出を行った方。
4. 【最重要】報酬の範囲と計算方法
最も間違いが多いのが「報酬」の定義です。社会保険上の報酬は、税務上の給与とは範囲が異なります。
(1)含めるべきもの(算定対象)
労働の対償として受けるものは、名称を問わずすべて含まれます。
・基本給: 月給、週給、日給など
・諸手当: 役付手当、精皆勤手当、家族手当、住宅手当など
・残業手当: ここでの計算ミスが命取りです。たまたま1円でも境界線を超えれば、1年間の保険料が数万円変わってしまいます。
・通勤手当: ここが最重要です。 現金支給だけでなく、定期券などの現物支給も含まれます。6ヶ月定期を支給している場合は、1ヶ月分に換算して各月に算入します。
(2)含めないもの(算定対象外)
臨時的なもの: 結婚祝金、見舞金、退職金、解雇予告手当など
・賞与: 年3回以下の賞与(これらは別途「賞与支払届」で対応します)
・実費弁償: 出張旅費など
<現物給与の注意点> 食事や住宅(社宅・寮)を提供している場合は、実際の費用ではなく、都道府県ごとに定められた「現物給与価額」に換算して合算する必要があります。
(3)支払基礎日数のカウント:「17日」の壁
報酬の平均を出す前に、その月が「計算に使ってよい月か?」を判断する「支払基礎日数」の確認が必要です。
<一般社員(フルタイム)の場合>
・原則として、支払基礎日数が17日以上ある月のみを対象として平均を算出します。
・月給制: 欠勤がなければ暦日(30日や31日)が基礎日数です。欠勤がある場合は、就業規則の所定労働日数から欠勤日数を引いて計算します。
・日給・時給制: 実際の出勤日数(有給休暇含む)が基礎日数です。
<パートタイマー(短時間就労者)の場合>
「うちはパートだから関係ない」という思い込みは危険です。労働時間等が一定以上あれば加入義務があり、無視すれば後日、数年分の保険料を追徴されるリスクがあります。パートタイマーの場合、以下の優先順位で判断します。
・17日以上の月がある場合: その月のみで計算。
・17日以上の月がない場合:15日以上の月を含めて計算。
<特定適用事業所の短時間労働者>
「週20時間以上」「月額8.8万円以上」などの要件を満たして社会保険に加入している短時間労働者の場合は、11日以上の月を対象として計算します。
5. よくあるイレギュラーケースへの対応
実務では「きれいな数字」ばかりではありません。ここからが社労士の真価、プロの「お守り」としての出番です。
① 昇給差額(遡及支払)があった場合 「4月に昇給したが決定が遅れ、差額を5月にまとめて払った」というケースです。そのまま平均すると保険料が不当に高くなってしまいます。
対応: 差額分(本来4月分として払ったもの)を報酬総額から控除(マイナス)して、平均額を算出します。
② 途中入社で1ヶ月分の給与がない場合 「4月15日に入社し、4月分は日割り計算だった」というケースです。
対応: 1ヶ月分の給与が支払われていない月は、たとえ支払基礎日数が足りていても、計算対象から除外します。この場合、4月を除き、5月・6月の平均で決定します。
③ 賞与を年4回以上支払っている場合 ここが盲点です。賞与は通常含めませんが、「年4回以上」支給される賞与は、標準報酬月額の計算に含めるルールがあります。
対応: 過去1年間(前年7月〜当年6月)に支払った賞与の合計額を12で割り、その額を各月の報酬に加算して届け出ます。
④ 残業代の遅配(月ズレではない場合) 通常の月ズレ(3月分残業代が4月払い)はそのまま含めますが、「計算ミスで未払いだった3月分の残業代を4月に払った」という遅配の場合は、その遅配分を除いて計算します。
⑤ 【重要トピック】社会保険適用促進手当の除外 パート社員等が社会保険に加入した際、手取りが減らないように事業主が支給する「社会保険適用促進手当」については特例があります。
特例措置: 新たに発生した本人負担分の保険料相当額を上限として、標準報酬月額の算定から除外することができます(最大2年間)。
⑥ 「年間平均」による算定:繁忙期の影響を平準化 「うちは4月〜6月が一番忙しくて残業が多い。この時期の給与で1年間の保険料を決められるのは納得がいかない」そんな経営者様のために「年間平均」という特例があります。
適用条件: 業務の性質上例年4月〜6月が繁忙期であり、通常の方法と比べて等級に2等級以上の差が生じ、かつ被保険者の同意を得ていること。
この特例を使うことで、実態に即した適正な保険料に抑えることが可能です(申立書の添付が必要)。
6. 「算定基礎届」と「月額変更届(月変)」の違い
この二つをセットで理解しておくことは、経営者の最低限の嗜みです。
・算定基礎届: 年に一度、7月の「定期健診」。
・月額変更届(月変): 給与が大きく変わった時の「随時健診」。
昇給や手当の新設で固定給が変わり、3ヶ月の平均が2等級以上ズレたのに「月変」を出さないままだと、後でまとめて多額の追徴が発生します。算定と月変は、経営を守るための「車の両輪」なのです。
👉 過去にも算定等について投稿しております。詳しくは、特集【入門講座・第2話】『年に一度の恐怖の通知』「算定基礎届」…それ、本当に合っていますか?社長が本業に専念するための「お守り」としての労務管理(全5話)』をご覧ください」
( https://www.ohtaka-sr.jp/info/20250919043721.html )
7. 算定基礎届 超・詳細Q&A(20問)
Q1. 4月15日に入社した社員の算定はどうなりますか?(給与末締め、翌月払いの会社)【A】1カ月分の給与が支給されない月を除いた月を対象としますので、 6月単月の実績で判断します。
Q2. 7月1日に退職した社員はどうなりますか?
【A】算定基礎届は、7月1日現在の被保険者が対象です。したがって算定の対象となります。
Q3. 派遣社員の算定は誰が行いますか?
【A】雇用主である派遣元企業が行います。
Q4. 病気療養中のため4月から6月の給料が無給の場合はどうなりますか?
【A】無給であっても実態で算定を届け出します。ただし3ヶ月間無給の場合には、保険者において従前の標準報酬月額と同じ月額として決定されます。
Q5. 役員報酬を変更した場合はどうなりますか?
【A】算定の対象ですが、3ヶ月平均で2等級以上の差が出る場合は「随時改定(月額変更届)」が優先されます。
Q6. 算定基礎届と7月~9月に月額変更届はどちらが優先されるのでしょうか?
【A】月額変更届が優先されます。算定基礎届の提出後であっても、7月~9月の月額変更届に該当した場合には、別途月額変更届の提出をお願いします。
Q7. 算定基礎届の届出を省略した、月額予定の被保険者が7月から9月の月額変更に該当しなかったときの手続きはどうしたらよいでしょうか?
【A】該当しないことが判明した時点で、その被保険者の算定基礎届を作成し、速やかに提出してください。
Q8. 二以上の事業所に勤務し、それぞれで被保険者となっている場合にはどうすればよいのでしょうか?
【A】同時に二以上の事業所に勤務する方の標準報酬月額は、各事業所から受ける報酬を合算して決定されます。また、各事業所における保険料は、各事業所から受ける報酬の割合により按分して計算されます。選択事業所を管轄する事務センターに提出することになります。
Q9. 算定基礎届の中に記入する支払基礎日数には、有給休暇は含まれるでしょうか?
【A】有給休暇は、労働の対償として報酬を受けているわけですから、支払基礎日数の中に含まれます。有給休暇日数を含めて支払った報酬の支給基礎日数が17日以上の月を算定の対象とします。
Q10. 6ヶ月単位の定期券を会社で購入し従業員に支給した場合、報酬になりますか?
【A】労働の対償として支給するものですから報酬となります。定期代を6ヶ月で割って1月あたりの額を算出し、各月の報酬に含めます。
Q11. 70歳以上の被保険者の扱いは?
【A】厚生年金保険料は発生しませんが、70歳以上被保険者算定基礎届の提出が必要です(健康保険のため)。
Q12. 遡及支払が「マイナス(過払い精算)」の場合は?
【A】本来支払われるべきであった月の報酬から控除して計算します。
Q13. 提出後に間違いに気づいたら?
【A】速やかに「算定基礎届訂正届」を提出し、必要書類を添付します。
Q14. 解雇予告手当は報酬に含まれる?
【A】含まれません。
Q15. 業績悪化による一時的な減給は?
【A】原則通り、実際に支払われた額で算定します。
Q16. 住宅手当と社宅(現物)の併用は?
【A】現金支給分と現物価額を合算します。
Q17. 労働の対償として受けるものでなく、「報酬等」に該当しないものは?
【A】傷病手当金、労働者災害補償保険法に基づく休業補償、解雇予告手当、退職手当等です。
Q18. 従業員の申請遅れにより、算定基礎届の対象月に遡って手当を支給したが、算定基礎届の訂正届を提出していなかった場合どうすれば良い?
【A】本来支給するべき月に算入する必要があります。そのため、本来支給するべき月に算定基礎届や月額変更届の対象月がある場合は、遡った手当を含めて算入し直すことが必要です。
Q19. 届出期間を過ぎても届出は可能でしょうか?
【A】期限を過ぎても提出は可能ですが、本来の提出期間は7月1日から7月10日までの期間になります。できる限り期限内に、仮に遅れる場合にもなるべく早めに提出をお願いします。
Q20. 提出後に間違いに気づいたらどうしますか?
【A】審査承認前であれば保険者に連絡をし、また承認後の場合には速やかに「算定基礎届訂正届」を提出し、必要書類を添付します。
8. おわりに:確かな数字に、品格を。
決定した保険料は、原則として9月分(10月支払給与)から反映されます。
算定基礎届は、確かに複雑で神経を使う手続きです。しかし、その数字の先には、御社を支える社員一人ひとりの生活があり、未来があります。正確な処理を行うことは、単なる事務の完遂ではなく、社長様が「誠実な経営」を世に示すこと。私たちは、中央区で戦う経営者様が、こうした労務の不安から解放され、本業という「航海」に専念できるよう、最強の羅針盤(お守り)であり続けたいと願っています。
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