【入門講座・第1話】『初めて従業員を雇う社長様へ』雇用時に必要な手続きと経営者の重い責任とは?(2026.4.15)
従業員を初めて雇う社長が絶対に知っておくべき労務管理の基本
「そろそろ人を雇おうか…」と考えていた社長が、実際に採用を決断したあの日から、会社のステージは確実に一段上がります。しかし同時に、経営者が見落としてはいけない「重い責任」がのしかかってくることも事実です。
初めて従業員を雇う際に必要な手続き、雇用後に毎年発生する労務イベント、そして小規模企業にありがちなトラブル事例まで、社会保険労務士の視点からわかりやすくまとめました。これを読めば「知らなかった」によるリスクをゼロに近づけることができます。
第1章|人を雇う=「使用者」になる。法律上の義務とは?
従業員を1人でも雇った瞬間から、会社は労働基準法をはじめとする各種労働法規の「使用者」となります。これは法人・個人事業主を問いません。
使用者が負う主な義務は次のとおりです。
・ 労働条件の明示
・ 法定時間外労働・休日労働に関する36協定の締結・届出
・ 賃金の確実な支払い(毎月・固定日払い)
・ 労働時間の適正な管理
・ 有給休暇の管理
・ 給与計算、年末調整業務
・ 最低賃金の遵守
・ 労働者名簿、賃金台帳、出勤簿の作成管理
・ 社会保険(健康保険・厚生年金)への加入
・ 労働保険(労災保険・雇用保険)への加入
・ 雇入れ時、定期健康診断等の実施
・ 安全衛生体制の確立
・ 安全配慮義務の履行
・ 算定基礎届、労働保険年度更新の実施
・ 育児、介護休業法対応 他
「うちは小さい会社だから関係ない」は通用しません。従業員が1人でも5人でも、法律の適用対象になります。
第2章|雇用時に必ず行う手続き一覧(期限・提出先つき)
知らないと後で大変なことになる手続きを、時系列で整理します。
(1)労働保険 成立届(雇用初日〜10日以内)・・・初めて労働者を雇うとき
(2) 雇用保険 被保険者資格取得届(雇用翌日から10日以内)
(3) 社会保険 被保険者資格取得届(雇用日から5日以内)
(4) 労働条件通知書(雇用契約締結時に必ず交付)
* 詳細につきましては、別記事『【入社手続き完全ガイド】中小企業の社長・担当者向け』( https://www.ohtaka-sr.jp/info/20250809155533.html )に詳しく記載してあります。
第3章|毎年発生する「労務イベント」を見落とすと何が起きる?
一度手続きをすれば終わり、ではありません。採用後も毎年以下の手続きが発生します。
(1) 算定基礎届(毎年7月10日締め切り)
(2) 労働保険 年度更新(毎年6月1日〜7月10日)
(3) 雇用保険料率の変更確認(毎年4月)
(4) 36協定の届出
(5) 定期健康診断の実施等
第4章|10人未満の企業で多発するトラブル事例
小規模企業でよく起きる労務トラブルを3つ紹介します。いずれも実際の相談事例をもとにしたものです。
【事例①】算定基礎届の金額ミスで年間十数万円の過払い
給与計算を社長自身が行っていたため、本来含めるべき通勤手当を算定対象から除外して申告。 後日、年金事務所の調査等で誤りが発覚し、不足していた保険料を遡って徴収されるなど、事務負担とコストが増大したケース。
【事例②】口頭採用で労働条件通知書なし→未払い残業代請求
「残業代は給与に含む」と口頭で説明していたが書面化していなかったため、退職した従業員から過去2年分の残業代請求が来たケース。結果、数十万円の和解金が発生。
【事例③】労災保険未成立のまま業務中にケガが発生
忙しさから成立届の提出を後回しにしていたところ、従業員が搬送される事故が発生。労災保険が使えず、会社が治療費を全額立替え、さらに行政から追徴保険料と費用徴収が課された。
第5章|労務トラブルを防ぐ3つの鉄則
これらのトラブルに共通するのは、「知らなかった」「後回しにした」「書面を作らなかった」という3点です。裏を返せば、この3点を押さえれば大半のリスクは回避できます。
【鉄則1】:雇用前に必要書類のチェックリストを用意する
労働条件通知書・就業規則(10人以上は法定)・雇用保険・社会保険の届出書類を事前に揃えておくことが基本です。
【鉄則2】:手続きの期限をカレンダー管理する
成立届・算定基礎届・年度更新など、年間の労務カレンダーを作ると抜け漏れが防げます。顧問社労士がいれば、リマインドも含めて任せられます。
【鉄則3】:口頭の約束を必ず書面化する
残業代・有給の扱い・試用期間の条件など、あいまいになりがちな合意事項はすべて書面に残します。後日の「言った言わない」トラブルを防ぐ最も確実な方法です。
まとめ|労務管理は「コスト」ではなく「経営のお守り」
従業員を雇うことは、会社の成長にとって欠かせない決断です。しかし、その決断には法律上の義務と責任が伴います。大切なのは、その責任を「怖いもの」として避けるのではなく、「正しく知って、きちんと備える」ことです。
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