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雇用契約書との違いは?労働条件通知書の「試用期間」や「更新上限」でトラブルを防ぐ!2024年新ルールに即した実務ガイド(2026.3.22)

雇用契約書との違いは?労働条件通知書の「試用期間」や「更新上限」でトラブルを防ぐ!2024年新ルールに即した実務ガイド

 

1. 労働条件通知書とは

 

(1) 企業が労働者に交付する労働条件を明示した書面

労働条件通知書とは、会社(使用者)が従業員を雇い入れる際に、賃金・労働時間・就業場所といった労働条件を書面で明示するために交付する書類です。

「採用面接のときに口頭で説明したから問題ない」と思っている経営者の方もいらっしゃいますが、それは大きな誤解です。労働基準法第15条は、労働契約の締結に際して使用者が主要な労働条件を書面等で明示することを義務として定めており、口頭説明だけでは法令上の義務を果たしたことになりません。

この書面があることで、「残業代の計算方法が聞いていた内容と違う」「勤務地が求人票と異なる」「休日の日数が違う」といった、入社後に起こりがちな認識のズレや労使トラブルを未然に防ぐことができます。従業員との信頼関係の入り口となる重要な書類であり、同時に会社を守るための証拠書類でもあります。

 

(2) 労働条件通知書がないのは違法

労働条件通知書を交付しないことは、労働基準法違反にあたります。違反した場合、30万円以下の罰金が科される可能性があります(労働基準法第120条)。

「うちは従業員が少ないから」「家族的な雰囲気でやっているから」という理由は、法律上まったく通用しません。従業員が1人でもいれば、雇用形態(正社員・パート・アルバイト・契約社員)を問わず交付義務が発生します。万が一、退職した従業員とトラブルになった場合や、労働基準監督署の調査が入った場合に経営者を守ってくれるのは「正しく整備された書面」だけです。書面の整備は、会社を守るための最も基本的な労務管理です。

 

(3) 労働条件通知書をもらうタイミング

労働条件通知書は、労働契約の締結時(入社前)に交付しなければなりません。具体的には以下のタイミングが該当します。

・ 正社員・パート・アルバイト・契約社員など、新たに雇用契約を結ぶとき

・ 有期労働契約(パート・契約社員など)を更新するとき

・ 労働条件を変更するとき

 

特に見落とされがちなのが、有期契約の更新時です。「入社時に渡したから、更新のたびに出し直す必要はない」と誤解している経営者の方は少なくありません。更新のたびに新たな契約内容を明示することが法令上求められていますので、運用を必ず見直してください。

 

(4) 雇用契約書との違い

  「労働条件通知書」と「雇用契約書」は混同されがちですが、法的な性質が異なります。

 

|       | 労働条件通知書           | 雇用契約書         |

| 性質    | 会社から労働者への一方的な「通知」 | 双方が合意する「契約書」  |

| 署名・捺印 | 会社側のみで可           | 双方の署名・捺印が必要   |

| 法的義務  | 交付が法律で義務付けられている   | 義務規定なし(作成を推奨) |

 

実務上は、両方の機能を兼ねた「労働条件通知書兼雇用契約書」を作成し、双方が署名・捺印する形式が広く採用されています。「言った・言わない」の水掛け論を防ぎ、企業側の証拠保全にもなるため、この形式を強くお勧めします。

 

 

2. 20244月改正】労働条件明示の新ルール

 

令和6年(2024年)41日より、労働基準法施行規則等の改正により、労働条件通知書に明示しなければならない事項が大幅に追加・変更されました。数年前にひな型を作ったままアップデートしていない会社は、今すぐ確認が必要です。古いフォーマットを使い続けることは、法令違反に直結します。

 

1)就業場所・業務の「変更の範囲」を明示

これまでは、雇い入れ直後の就業場所と業務内容を記載するだけで足りました。しかし改正後は、将来的な配置転換・異動を見据えた「変更の範囲」の明示が、すべての労働者に対して義務化されました。

「東京本社採用だと思っていたのに地方転勤を命じられた」「事務職で入社したのに営業へ異動させられた」といったトラブルを防ぐための措置です。

 

【雇用形態別の記載例】

・正社員(全国転勤あり):「就業の場所:東京本社(変更の範囲:会社の定める全事業所)」

・正社員(転勤なし・職種限定):「就業の場所:東京本社(変更の範囲:変更なし)」

・有期契約(パート等):「就業の場所:〇店舗(変更の範囲:当該契約期間中は変更なし)」

 

なお、日雇い労働者については雇入れ日の就業場所と業務を明示すれば足りるため、「変更の範囲」の記載は不要です。

 

2)有期契約の更新上限の明示

パートや契約社員など有期労働契約を結ぶ場合に、契約の更新回数または通算契約期間の上限を設けているときは、その内容を明示することが義務化されました。また、上限を新たに設けたり引き下げたりする場合は、あらかじめその理由を労働者に説明しなければなりません。

更新上限を設けていない場合に「上限なし」と書く法的義務はありませんが、労使間の認識を明確にするために「更新上限なし」と明記しておくことが実務上は推奨されます。

 

3)無期転換機会・無期転換後の労働条件の明示

有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合、労働者の申込みにより無期労働契約に転換できる「無期転換ルール」があります。今回の改正で、無期転換申込権が発生するタイミングの契約更新時に、無期転換できる権利があること、無期転換後の労働条件を書面で明示することが義務化されました。

「本人が無期転換を希望していない」と言っている場合でも、会社側の通知義務は省略できません。勤続5年を迎えるパート・アルバイト・契約社員がいないか、契約管理台帳を整備して漏れなく対応することが重要です。

 

 

3. 労働条件通知書の明示事項

 

(1) 絶対的明示事項

雇用形態にかかわらず、必ず明示しなければならない事項です。記載漏れがあると法令違反となりますので、自社のフォーマットと照合して確認してください。

 

| 項目           | 内容例                       |

| 労働契約の期間      | 期間の定めなし/令和〇年〇月〇日〜令和〇年〇月〇日 |

| 就業の場所・業務の内容  | 東京本社(変更の範囲:全事業所)、営業業務      |

| 始業・終業時刻、所定外労働の有無 | 9:0018:00、休憩60分、時間外労働あり    |

| 休日・休暇        | 土日祝、年次有給休暇(法定通り)          |

| 賃金(計算・支払方法、締め日・支払日) | 月給25万円、末締め翌25日払い    |

| 退職・解雇に関する事項  | 退職手続き、解雇事由など              |

 

(2) 相対的明示事項

 

就業規則に定めがある場合に明示が必要な事項です。該当する制度を設けている場合は、書面または電子的方法等で明示してください。

 

・ 退職手当に関する事項

・ 臨時に支払われる賃金・賞与に関する事項

・ 労働者に負担させる食費・作業用品に関する事項

・ 安全・衛生に関する事項

・ 職業訓練に関する事項

・ 災害補償・業務外の傷病扶助に関する事項

・ 表彰・制裁に関する事項

・ 休職に関する事項

 

 

4. 労働条件通知書に関するよくあるQ&A

 

Q1. 労働条件通知書の交付は義務ですか?

Aはい、義務です。労働基準法第15条により、使用者は労働契約の締結に際して主要な労働条件を書面等(または本人が希望する場合はメール等の電磁的方法)で明示することが義務付けられています。正社員はもちろん、パート・アルバイト・契約社員など雇用形態を問わず、1人でも雇用していれば対象です。

 

Q2. 労働条件通知書はどうやって入手する?

A厚生労働省のホームページから無料でダウンロードできます。ただし、20244月の法改正に対応した最新版を必ず使用してください。 古いひな型には「変更の範囲」「更新上限」の欄が設けられていないため、そのまま使用すると法令違反になるリスクがあります。自社の雇用形態や業種に合わせてカスタマイズしたい場合は、専門家への相談をお勧めします。

 

Q3. 労働条件通知書をもらっていないと言われたときはどうする?

A従業員から「通知書を受け取っていない」と申し出があった場合は、速やかに交付してください。「渡した」「渡していない」の水掛け論を防ぐためにも、交付の際には受領確認書にサインをもらう、または控えに押印してもらう運用が有効です。また、採用・更新のフローにチェックリストを組み込み、交付漏れが発生しない仕組みを整えておくことが根本的な対策になります。

 

Q4. 労働条件通知書に試用期間が書いてある場合、延長できますか?

A試用期間の延長は、事前に労働条件通知書または雇用契約書に「延長する場合がある」旨が明記されている場合に限り認められるのが原則です。事前の明示なしに一方的に試用期間を延長することは、労働条件の不利益変更にあたり、法的に認められない可能性が高いです。仮に労働条件通知書等に延長の明示が無いのに、どうしても延長しなくてはならない理由がある場合には対象従業員に延長理由を説明し合意のうえ延長をしてください。試用期間を設ける場合は、その期間・延長の有無・本採用しない場合の判断基準を、あらかじめ通知書に明確に記載しておきましょう。

 

Q5. すでに働いている従業員に対して、改めて通知書を交付する必要はありますか?

A既存の従業員に交付し直す法的義務はありません。ただし、20244月の法改正を機に最新版の通知書を配布することは、従業員との労働条件の認識を合わせるうえで有益であり、「望ましい取組」とされています。

 

Q6. 電子メールやPDFでの交付は認められますか?

A労働者本人が希望した場合に限り、電子メール・FAXSNS等の電磁的方法による交付が認められています。会社側が一方的に「うちはメールで送るから」と決めることはできません。本人の同意を得た上で交付方法を選択してください。

 

Q7. パートタイム・有期雇用労働者に対して、追加で明示すべき事項はありますか?

Aはい、あります。パートタイム・有期雇用労働法により、①昇給の有無、②退職手当の有無、③賞与の有無、④相談窓口の4項目を書面等で明示することが義務付けられています。通常の労働条件通知書に加えて、これらの項目も必ず記載してください。

 

 

5.まとめ

 

 20244月の法改正により、労働条件通知書は単なる「雇い入れ時の事務手続き」から、企業の「リスク管理」そのものへと変貌を遂げました。

特に今回解説した「試用期間の延長ルール」や「就業場所・業務の変更範囲」の明示は、万が一の労使トラブルの際に、会社を守るための強力な盾となります。逆に、この書面が不完全なままでは、経営者は常に大きな法的リスクを抱えながら事業を継続することになってしまいます。

 

「うちは昔からのひな型を使っているから大丈夫」「ネットで拾ったテンプレートで済ませている」という企業様こそ、今一度、その書面が最新の法改正(令和64月施行)に適合しているか、自社の実態と乖離していないかを確認していただきたいのです。

20244月改正に正しく対応できているか不安

・試用期間や無期転換の運用で、将来のトラブルを未然に防ぎたい

・自社の業種に特化した、使い勝手の良い通知書の書式を作りたい

 

こうしたお悩みをお持ちの経営者様、担当者様は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。専門家の視点から、貴社の大切な「人」と「経営」を守るための最適な解決策をご提案いたします。

 

                          【投稿者:社会保険労務士 大髙 秀樹】

 

 

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