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健康診断は義務!?知っておきたい基礎知識 | 対象者は誰か?(2026.4.2)

「うちは従業員が少ないから、健康診断はそこまで厳密にやらなくてもいいだろう」~そう思っている社長・担当者の方はいませんか?実は、これは大変危険な誤解です。

労働安全衛生法は、従業員を1人でも常時使用していれば、健康診断の実施を事業者に義務づけています。正社員はもちろん、一定の条件を満たすパートやアルバイトも対象です。

本記事では、社会保険労務士の視点から、中小企業の経営者が「今すぐ確認すべき」健康診断の義務と実務の急所を、わかりやすく解説します。

 

 

1. 小さな会社でも「健康診断」は絶対義務!

 

(1)義務付けの目的は「適正配置」と「安全配慮義務」

健康診断は単なる福利厚生ではなく、労働安全衛生法に基づく事業者の「法的義務」です。その目的は、従業員の健康状態を把握して業務に支障がないかを確認する「適正配置」と、健康状態に応じた措置を講じる「安全配慮義務の履行」にあります。

実施や事後措置を怠り、疾病が悪化した場合には、安全配慮義務違反として民事上の損害賠償を問われる可能性があります。なお、受診費用は全額事業者が負担しなければなりません。

 

(2)対象となるのは社員だけ?パート・アルバイトの実施条件

雇入れ時の健診と定期健診は「常時使用する労働者」が対象です。パートやアルバイトでも、以下の要件を両方満たせば実施義務が生じます。

・雇用期間:期間の定めがない、または1年以上の継続使用が見込まれる場合。

・労働時間:1週間の所定労働時間が、正社員の「4分の3以上」であること。

 

週の労働時間が正社員の「概ね2分の1以上」の者についても、安全配慮義務の観点から実施することが「望ましい」とされています。

 

(3)入社時の「雇入れ健診」と年1回の「定期健診」の違い

事業者に義務づけられている主な健康診断は以下の通りです。

 

① 雇入れ時の健康診断(安衛則第43条):新たに雇い入れる際に実施します。省略できる項目はありません。入社前3ヶ月以内の健診結果提出があれば代用可能です。

 

② 一般定期健康診断(安衛則第44条):1年以内ごとに1回実施します。既往歴及び業務歴の調査、自覚症状及び他覚症状の有無の検査、身長、体重、視力、聴力、胸部X線、血圧、貧血、肝機能、血中脂質、血糖(HbA1c含む)、尿検査、心電図などの全11項目が基本です。医師の判断により一部省略可能ですが、機械的な年齢による省略は認められません。

 

③ 特殊健康診断(安衛則第45条等):深夜業や有害業務に従事する労働者が対象で、6ヶ月以内ごとに1回実施します。パートやアルバイトなど雇用形態にかかわらず、これらの職務に常時従事している従業員がいる場合、『特殊健康診断』を実施しなければなりません。

2. 社長が最も恐れるべき「健康診断未実施」の3大リスク

 

(1)法律上の罰則規定(50万円以下の罰金刑)

健康診断を実施しなかった場合、労働安全衛生法第120条に基づき、50万円以下の罰金が科せられます。これは刑事上の制裁であり、送検されれば企業名が公表されるリスクもあります。

 

(2)労働基準監督署への「報告義務」がある場合・ない場合

「自社の運用が法的に問題ないか?」と不安を感じる方も多いでしょう。

特に常時50人以上の事業場には報告義務があり、2026年現在は電子申請が推奨されています。

・常時50人以上の事業場:遅滞なく「定期健康診断結果報告書」を労基署へ提出する義務があります。

・常時50人未満の事業場:定期健診の報告義務はありません。ただし、特殊健康診断については規模に関わらず報告が必要です。

 

(3)【最重要】損害賠償も!?安全配慮義務違反の恐怖

最大の懸念は刑事罰よりも民事賠償です。健診で発見できたはずの病気を見逃し、従業員が死亡・重篤化した際、裁判所は会社に「安全配慮義務違反」を認める傾向にあります。逸失利益を含めると多額の賠償額支払いの可能性があり、中小企業の存続を揺るがしかねません。

 

(4)従業員が受診を拒否したら?社長が取るべき「法的」対応策

従業員にも受診義務(安衛法第665項)がありますが、罰則はありません。そのため、会社は「業務命令」として受診を命じる必要があります。正当な理由のない拒否は業務命令違反として懲戒処分の対象となり得ますが、そのためには就業規則への明記が不可欠です。

 

 

3. コストと手間の悩み解決!中小企業の賢い健診運用ポイント

 

(1)費用負担のルール:会社が経費計上すべき範囲

法定項目は会社が全額負担し、「福利厚生費」として経費計上します。二次健診(精密検査)の費用負担は任意ですが、労災保険の「二次健康診断等給付」(脳・心臓疾患予防)を活用すれば、要件を満たす従業員は無料で受診可能です。

 

(2)受診時間は「就業時間中」にすべき?賃金支払いの判断基準

一般健診は法律上の賃金支払義務はありませんが、円滑な実施のため「就業時間内・有給扱い」にするのが実務上のスタンダードです。一方、特殊健康診断は就業時間内に行う必要があり、賃金支払いも義務となります。

 

(3)健康診断結果の「5年間保管」とプライバシー保護の注意点

健診結果(個人票)は5年間の保存義務があります。機微な情報であるため、閲覧者を担当者や産業医に限定し、アクセス制限を徹底してください。結果を採用や解雇の不当な判断材料にすることは厳禁です。

(特殊健康診断の種類によって保存年数が異なります。ご注意願います。)

 

4. 実施して終わりではない!健診後の「4つの義務」


 健診後の対応不足が「安全配慮義務違反」の引き金になります。以下の4点をセットで管理してください。

・個人票の作成・5年間保存(特殊健康診断の種類によって保存年数が異なります。)

・医師等からの意見聴取:異常所見者に必要な措置を医師に相談。

・就業上の措置:医師の意見に基づき、残業禁止や配置転換等を検討・実施。

・本人への通知:結果を速やかに労働者へ伝える。

 

(1)医師からの意見聴取と「就業制限」の判断基準

「異常所見あり」=「即休職」ではありません。医師の判断に基づき、通常勤務が可能か、あるいは一定の制限(深夜業禁止など)が必要かを個別に決定します。

 

(2)二次健診の受診勧奨と保健指導の重要性

再検査が必要な従業員に対し、受診を勧奨することは会社の努力義務(安衛法66条の7)ですが、安全配慮義務の観点からは強く推奨されます。

 

(3)産業医の選任義務は?規模が小さくても選任すべき理由

50人未満の事業場に選任義務はありませんが、地域産業保健センターなどの無料相談枠を活用し、スポットで医師の意見を聴く体制を作っておくと、休職・復職トラブルの際に会社を守る武器になります。

 

 

5. 企業と従業員の不安を消すために!専門家による定期的な管理を

 

労働安全衛生法は頻繁にアップデートされます。既存の検査項目では把握できない腎機能低下者を発見できることから、40歳以上の労働者を対象に、新たに「血清クレアチニン」検査を定期健診などへ追加する検討や、女性特有の健康課題への対応など、最新情報を常に追うのは中小企業の担当者にとって大きな負担です。

「今の体制で法的に問題ないか?」という不安を解消するには、就業規則の整備から事後措置の運用まで、社労士等の専門家と連携することをお勧めします。

 

 

6.まとめ

 

定期健康診断等は、従業員の命を守ると同時に、会社を法的な破綻から守る「防波堤」です。

 

・対象:パート・アルバイトも週30時間以上(正社員の4分の3)なら対象。

・リスク:未実施は罰金刑に加え賠償リスクも。

・事後措置:受診させて終わりではなく、医師の意見聴取と就業措置が義務。

・基盤:受診拒否を防ぐため、就業規則に受診義務を明記する。

 

「健康診断の実施」は義務を果たすだけでなく、会社を強くする「投資」です。まずは以下の2点から始めてみましょう。

 

1)受診率100%の徹底

全員受診は、労基署対策だけでなく「社員を大切にする会社」という最高の求人メッセージになります。離職を防ぎ、採用力を高める第一歩です。

 

2)就業規則による「仕組み化」

「受診は会社の命令」とルール化することで、社員の健康を守り、万が一の未受診トラブルから会社を法的に守る「防波堤」になります。

 

安衛法を遵守し、適切な事後措置を講じることは、会社を法的リスクから守るための不可欠な防衛策です。まずは現在の受診状況を正確に把握し、法改正に対応した就業規則の整備から着手しましょう。

 

 

      【投稿者:社会保険労務士 大髙 秀樹】

 

 

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