在職老齢年金65万円ルールとは?2026年4月改正後の支給停止を解説(2026.4.4)

「まだ元気だし、もっと働きたい。でも、働きすぎると年金が減るって聞いて不安…」
そんな悩みを抱えている従業員や、その相談を受けた経営者・人事担当者の方はいませんか?実は、2026年(令和8年)4月から、在職老齢年金制度が大きく変わります。年金が減額される基準額が、現行の月額51万円から「65万円」へと引き上げられ、多くの方が年金をもらいながら、もっと自由に働けるようになります。
本記事では、社会保険労務士の視点から、この制度改定の内容と実務への影響を、わかりやすく解説します。
第1章. 在職老齢年金とは?まず基本を押さえましょう
(1)制度の仕組みと目的
在職老齢年金とは、働きながら老齢厚生年金を受給する高齢者に対し、賃金と年金の合計額が一定基準を超えた場合に、年金の一部または全額を支給停止(減額)する仕組みです。
「年金制度を支える側に回っていただく」という考え方に基づくものですが、一方で、高齢者の労働意欲を低下させるとの批判も根強くありました。
(2)対象となる年金と対象外の年金
この制度による調整(減額)の対象となるのは、「老齢厚生年金(報酬比例部分)」のみです。
・老齢基礎年金(国民年金):対象外。どれだけ収入があっても全額支給されます。
・加給年金額・経過的加算額:基本的に全額支給されます(ただし老齢厚生年金本体が全額停止の場合は加給年金も停止)。
(3)計算に使う2つのキーワード
在職老齢年金の計算には、以下の2つの用語が登場します。
| 用語 | 内容 |
| 基本月額 | 加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の年額÷12の月額 |
| 総報酬月額相当額 | その月の標準報酬月額+直近1年間の賞与額÷12。おおむね「月給+ボーナスの月割り」と考えてください |
第2章. 2026年(令和8年)4月の改定内容:基準額が51万円→65万円に!
(1)なぜ今、引き上げられるのか?
65歳から69歳の就業率は、1990年の38.7%から2025年には54.5%まで大きく上昇しています。内閣府の世論調査では、65歳〜69歳の約6割が「66歳以降も収入を伴う仕事を続けたい」と回答しています。
しかし一方で、同調査の31.9%もの方が「年金額が減らないよう時間を調整して働く」と回答。現行の制度が、高齢者の「もっと働きたい」という意欲にブレーキをかけているという現実がありました。
そこで近年の法改正で成立した年金制度改正法により、2026年(令和8年)4月から基準額が大幅に引き上げられることになりました。
【データの引用元:令和6年内閣府「生活設計と年金に関する世論調査」】
(2)改定のポイント:3つの変化

第3章. 具体的な計算方法とシミュレーション

(3)「65万円を超えたら損をする」は誤解!
65万円を超えた場合でも、超えた分の「半額」が年金から差し引かれるだけです。賃金が増えれば増えるほど、年金と賃金の合計(手取り)は必ずなだらかに増加します。65万円のラインを超えたからといって、急に損をするわけではありませんのでご安心ください。
第4章. 企業・人事担当者が押さえておくべき実務ポイント
(1)在職定時改定:毎年10月に年金が増える仕組み
65歳以上70歳未満で厚生年金に加入しながら年金を受給している方は、毎年9月1日時点の加入状況をもとに年金額が再計算され、翌10月の年金から反映されます。これを「在職定時改定」と言います。働き続けた分だけ毎年年金が増える仕組みのため、高齢者の継続就業を後押しするものです。
(2)繰下げ受給との組み合わせで、さらに年金が増やせる
年金を66歳〜75歳まで遅らせて受け取る「繰下げ受給」は、1か月あたり0.7%増額され、最大84%の上乗せが可能です。
ただし、繰下げ待機中に「在職老齢年金制度で支給停止されるはずだった部分」は、繰下げ増額の対象になりません。今回の改定で基準額が65万円に引き上げられると、支給停止になる部分が減る(またはゼロになる)ため、繰下げ受給の効果がより大きくなります。
(3)雇用保険との二重調整に注意
高年齢雇用継続給付(60歳以上65歳未満で賃金が低下した方への給付)を受けながら年金も受給している場合は、在職老齢年金の基準額による調整に加えて、さらに年金がカットされる仕組みがあります。
追加で年金が止まる額は最高で「賃金(標準報酬月額)の4%」に当たる額が支給停止されます。実務上の注意点としては、この「4%」という上限は令和7年4月からの改正後のルールです。それ以前(令和7年3月まで)に受給条件を満たしていた方の場合は、経過措置として最大6%が適用されるケースがありますので、個別の確認が重要です。
失業給付との関係として、退職してハローワークに求職申込みをした場合は、申込みの翌月から年金(加給年金含む)が全額停止されます(失業給付との調整)。失業給付を受けなかった月については、後から事後精算で年金が支払われますのでご安心ください。
第5章. 社労士からのアドバイス
令和8年4月の基準額引き上げは、高齢の社員様にとって「働きながらもらえる年金が増える」という非常にポジティブな改定です。企業にとっても、ベテラン社員の就業調整を防ぎ、人材確保・技能継承の面で大きなメリットがあります。
ただし、年金制度は複雑です。一人ひとりの過去の加入履歴・賃金水準・雇用保険の状況によって結果は異なります。具体的なシミュレーションを行いたい場合は、日本年金機構の「ねんきんネット」の活用をお勧めします(65万円基準での試算は令和8年4月以降に対応予定です)。「自社の高齢者社員様の働き方を見直したい」「従業員から年金の相談を受けている」という場合は、社会保険労務士にご相談ください。個別の状況に合わせた最適な働き方と年金受給のタイミングについて、丁寧にアドバイスいたします。
第6章. まとめ
在職老齢年金の基準額引き上げは、「働く高齢者が損をしない社会」への大きな一歩です。以下のポイントを社内で共有し、ぜひ活用してください。
・2026年4月から、年金が減額される基準額が51万円→65万円に引き上げ。
・賃金と年金の合計が65万円以下なら、年金は全額支給(支給停止ゼロ)。
・65万円を超えても、手取りが減ることは絶対にない(超過分の半額が調整されるだけ)。
・雇用保険(高年齢雇用継続給付・失業給付)との調整には注意が必要。
・繰下げ受給との組み合わせで、さらに年金を増やす戦略も有効。
制度改正を機に、高齢者の方々が安心して、そして意欲的に働ける職場環境の整備を進めてみましょう。具体的なご相談は、お気軽に専門家にお問い合わせください。
【投稿者:社会保険労務士 大髙 秀樹】
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