有給休暇の5日取得義務化とは?パートの基準と実務の注意点を解説(2026.5.18)

「うちはパートが多いから関係ない」「毎年なんとなく有給を消化している」――そう思っていませんか?
2019年4月に施行された改正労働基準法により、一定の条件を満たす全ての労働者に対して、使用者(会社)が年5日の有給休暇を確実に取得させる義務が課されました。正社員はもちろん、パートタイマーや管理職も対象になるケースがあり、違反した場合は労働者1人あたり最大30万円の罰金が科される可能性があります。
今回は、有給休暇の基本ルールから5日義務化の対象範囲・実務対応・よくある疑問まで、中小企業の社長・担当者の方にわかりやすく解説します。
第1章. そもそも有給休暇とは?基本ルールをおさらい
(1)有給休暇がもらえる2つの条件(出勤率8割以上など)
年次有給休暇(以下「有給」または「年休」)は、会社が恩恵的に与えるものではなく、法律上の要件を満たした場合に「自動的に発生する権利」です。以下の2つの条件を両方満たした時点で、法律上当然に付与されます。
・条件①:雇入れの日から6か月間、継続して勤務していること
・条件②:その期間の全労働日の8割以上出勤していること
「継続勤務」とは、労働契約が存続していることを指し、有期契約を繰り返し更新している場合も含まれます。また出勤率の計算では、業務上の傷病による休業・産前産後休業・育児休業・介護休業の期間等は「出勤したもの」として取り扱う必要があります。
⚠ よくある誤解:「試用期間中は有給がない」は間違いです
試用期間であっても、雇入れから6か月の継続勤務と8割以上の出勤という要件を満たせば、有給休暇は発生します。「試用期間中は有給なし」という就業規則の定めは無効ですのでご注意ください。
(2)【早見表】勤続年数と週の勤務日数による付与日数
週30時間以上または週5日以上勤務する一般の労働者(正社員など)には、勤続年数に応じて以下の日数が付与されます。
| 勤続年数 | 0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年以上 |
| 付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日| 20日 |
📌ポイント
勤続0.5年(入社6か月後)で10日が付与されるところからスタートします。「年10日以上」付与された時点から、後述する「年5日の取得義務化」の対象となります。
(3)パート・アルバイトにも有休は付与される(比例付与)
週の所定労働時間が30時間未満かつ週4日以下(または年間216日以下)のパート・アルバイトには、労働日数に応じた「比例付与」が行われます。「パートだから有給はない」は大きな誤りです。
| 週所定労働日数 | 0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年以上 |
| 4日(年169〜216日) | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
| 3日(年121〜168日) | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
| 2日(年73〜120日) | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
| 1日(年48〜72日) | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
第2章. 有給休暇「年5日取得義務化」の全体像
(1)対象となるのは「年10日以上」付与される労働者
使用者(会社)が年5日の有給取得を確実にさせる義務の対象は、「年10日以上の有給休暇が付与される全ての労働者」です。正社員・管理職・有期雇用労働者も含め、幅広く対象となります。
📌 対象となる主な労働者の例
・勤続0.5年以上の正社員・契約社員(10日以上付与のため)
・管理監督者(いわゆる管理職)も対象外にはなりません
・週4日勤務のパートで勤続3.5年以上の方(10日付与のため対象)
・週3日勤務のパートで勤続5.5年以上の方(10日付与のため対象)
(2)【要注意】週4日以下のパートでも対象になるケースとは?
パート・アルバイトであっても、比例付与の日数が年10日以上に達した時点から義務化の対象となります。経営者が見落としがちなポイントです。
| 週所定労働日数 | 義務化対象になる勤続年数 |
| 週4日(パート) | 3.5年以上(10日付与から) |
| 週3日(パート) | 5.5年以上(10日付与から) |
| 週2日・1日(パート) | 付与日数が10日に達しないため対象外 |
⚠ よくあるミス:「うちのパートは関係ない」と思い込んでいる
勤続年数が長いパートスタッフは、いつの間にか義務化の対象になっていることがあります。定期的に全スタッフの付与日数と勤続年数を確認する仕組みを作ることが重要です。
(3)5日を取得させなければならない「期限(基準日)」の数え方
使用者は、有給休暇が年10日以上付与された日(基準日)から1年以内に、5日以上取得させなければなりません。
・基準日の例:入社が4月1日 → 6か月後の10月1日が基準日 → 翌年9月30日までに5日取得
・一斉付与の場合:全社員の基準日を4月1日に統一することも可能(前倒し付与が必要な場合あり)
全社員の基準日をバラバラに管理するのは実務上非常に煩雑です。年度初めに基準日を統一する「一斉付与」の導入を検討することをお勧めします。
第3章. 【実務の疑問】5日義務化の履行に含まれるもの・含まれないもの
(1)「半日単位」「時間単位」の有休はカウントできるか
5日の義務を満たすためのカウント方法は、取得の単位によって異なります。実務上のトラブルを防ぐため、必ず確認してください。
| 取得の単位 | 5日義務へのカウント | 備考 |
| 1日単位 | ◎ カウントできる | — |
| 半日単位(午前・午後) | ○ 0.5日としてカウント | 労働者の希望と会社の同意 |
| 時間単位 | ✕ カウントできない | 5日にはカウント不可 |
⚠ 重要:時間単位年休は5日義務から除外
時間単位年休(例:2時間だけ取得)は、何時間分取得しても「年5日の義務」に算入することができません。時間単位年休は育児・介護・通院などに便利な制度ですが、5日義務のカウントとは別物として管理してください。
(2)会社独自の「特別休暇(夏季・慶弔など)」はカウントできるか
夏季休暇・慶弔休暇・誕生日休暇など、会社が独自に設けた「特別休暇」は、法律上の年次有給休暇とは別の制度です。これらは、年5日の有給取得義務のカウントには一切含まれません。
特別休暇を多く設けている会社でも、年休として「5日間」を別途取得させる義務があります。特別休暇を有給消化の代替として扱うのは法律違反となりますので注意してください。
(3)「前年度からの繰り越し有休」を消化した場合はどうなる?
年5日の義務は、「繰り越し分か当年度分かを問わず、実際に取得した日数は5日義務にカウントできる」のが基本です。前年度から繰り越した有給を消化した場合のカウントについては、以下の通りです。
・労働者が繰越分を取得した場合 → 5日義務にカウントできる
管理上の混乱を防ぐため、「当年度付与分から先に消化する」等のルールを就業規則に明記しておくことが実務上の鉄則です。
第4章. うっかり違反を防ぐ!企業が取るべき4つの具体策
対策①:計画年休(計画的付与制度)の導入
計画的付与とは、5日を超える部分の有給について、労使協定を締結することであらかじめ取得日を決める制度です。会社側が主導して計画的に休ませることができるため、義務の5日を達成しやすくなります。
・夏季休暇・年末年始に組み合わせた「大型連休化」
・飛び石連休の間を埋める「ブリッジホリデー」の設定
・班・グループごとに交代で取得する「シフト型計画付与」
📌ポイント
計画的付与で取得した日数は、年5日の義務に算入できます。導入には労使協定の締結と就業規則への記載が必要です。労働者が「ためらいなく休める」環境を作れるため、取得率向上に最も効果的な手段の一つです。
対策②:使用者(会社)による「時季指定」の発動
年度末が近づいても5日を達成できていない労働者に対しては、会社が時季を指定して取得させることができます(義務でもあります)。ただし、指定にあたっては労働者の意見を聴取し、できる限り希望に沿った時季とする必要があります。
| ステップ | 内容 |
| Step 1 | 面談・メール等で労働者の希望時季を確認(意見聴取) |
| Step 2 | 聴取した意見を踏まえ、具体的な取得日を書面で通知 |
| Step 3 | 取得日・日数を年次有給休暇管理簿に記録 |
対策③:年次有給休暇管理簿の作成と保存(3年間)
使用者は、全ての労働者について「年次有給休暇管理簿」を作成・保存することが義務付けられています。
・記載必須事項:基準日・取得時季(取得日)・取得日数
・保存期間:有給を与えた期間終了後、3年間(当分の間の経過措置)
・紙・電子データいずれも可。システムで随時出力できる状態であれば印刷は不要
⚠よくあるミス:管理簿を作っていない・古い情報のまま放置
労働基準監督署の調査が入った際、管理簿を即座に提示できるかが重要な判断基準になります。日々更新される体制を整えておくことが、最大のリスク管理です。
対策④:就業規則への規定(義務化への対応は必須)
時季指定に関するルールは、就業規則に必ず明記しなければなりません。これは労働基準法に基づく義務です。記載が漏れていると、時季指定を行っても法的根拠が不十分となるリスクがあります。
・時季指定の対象となる労働者の範囲
・時季指定の方法(面談・書面通知など)
・労働者が希望を申し出る手続き
就業規則の見直しは、社会保険労務士への相談が最も確実です。当事務所でも対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
第5章. 万が一、違反した場合の罰則と企業リスク
(1)対象者1人あたり「30万円以下の罰金」という重いペナルティ
年5日の取得義務に違反した場合、労働基準法第120条に基づき、使用者に対して「30万円以下の罰金」が科せられます。この罰則は労働者1人ごとに適用されます。
一般的には、まず労働基準監督署から「是正勧告」が出され、改善を促されます。しかし、指導に従わない場合や、管理簿の改ざん・虚偽報告といった悪質なケースでは、書類送検・罰金刑の対象となります。
(2)企業名公表や採用活動への致命的な悪影響
罰則以上に怖いのが、企業イメージへのダメージです。労働基準法違反として送検・公表された場合、以下のような二次被害が生じます。
・ハローワーク等での求人票に「法令違反あり」と記載されるリスク
・求職者・就活生からの信頼低下による採用難
・既存従業員の離職・モチベーション低下
・取引先・顧客からの信用失墜
人手不足の時代に、採用ブランドを損なうことは経営上の致命傷になりかねません。法令遵守は単なるコストではなく、優秀な人材を確保するための「投資」と捉えてください。
第6章. よくある労務トラブルとQ&A
Q1. 退職時の有休消化を拒否することはできる?
A: 原則として、拒否することはできません。
使用者が有給の時季を変更できる「時季変更権」は、「他の時季に与える」ことが前提の権利です。退職後には「他の時季」が存在しないため、退職直前の有給申請に対して時季変更権を行使することは実質的に不可能です。
「辞める前に20日一括消化したい」という申し出にも、基本的には応じざるを得ません。このような事態を防ぐためには、日頃から計画的付与を活用して残日数を管理すること、および就業規則で引継ぎ業務を明確に義務化しておくことが重要です。
Q2. 有休の「買い取り」は法律上認められるの?
A:原則として、在職中の有休買い取りは違法です。
有給休暇を金銭で買い取ることは、「有給を取得させない」ことと同義になるため、原則として認められていません。ただし、以下の場合は例外的に認められています。
・退職時に消化しきれなかった未使用の有給を退職金代わりに買い取る場合
・法定を超えて付与した有給(例:法定20日を超える分)を買い取る場合
⚠ 注意
「毎年、有休を現金で買い取る」という制度を恒常的に設けることは、有給取得を抑制する運用とみなされ違法となります。「退職者に限り、未使用分を買い取る」という規定は、就業規則に明記することで対応可能です。
第7章. まとめ:適正な有休管理と労務リスク対策は社労士にお任せください
年次有給休暇の「年5日取得義務化」は、正社員・パート・管理職を問わず、幅広い労働者に適用されます。違反した場合の罰則は1人あたり最大30万円と重く、企業イメージへのダメージも深刻です。
適切な有休管理のために、今すぐ取り組むべきポイントをまとめます。
1. 全スタッフの付与日数・勤続年数を確認し、義務化の対象者を把握する
2. 年次有給休暇管理簿を整備し、常に最新の状態に保つ
3. 計画的付与制度の導入・就業規則の整備を進める
4. 年度末に取得が不足している従業員には、会社が時季を指定して取得させる
「自社の対応が正しいか不安」「就業規則を見直したい」「管理簿の作り方がわからない」―
当事務所では、有給休暇管理の仕組みづくりから就業規則の改定、労使協定の締結サポートまで、中小企業の労務管理をトータルでサポートしておりますので、お気軽にお問い合わせください。
【投稿者:社会保険労務士 大髙 秀樹】
👉ご相談なら東京・中央区の社労士 大高労務管理事務所へ
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