月平均所定労働時間の計算方法とは?残業代単価への影響と注意点を解説(2026.5.17)

「残業代の計算をしようとしたら、時間単価の出し方がわからない」「就業規則に所定労働時間を書いたが、本当に正しいのか自信がない」―中小企業の経営者・担当者の方からよくいただくご相談です。
その答えを解くカギが、「月平均所定労働時間」の正しい理解にあります。この数字を誤ると、残業代の計算が狂い、未払い残業代の問題や労基署からの是正勧告につながるリスクがあります。本記事では、社労士の立場から、計算の仕組み・法的な上限・実務上の注意点まで、わかりやすくご説明します。
第1章. 月平均所定労働時間とは?(法定労働時間との違い)
まず基本的な用語の整理から始めましょう。
「所定労働時間」とは、就業規則等で定められた始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間を差し引いた労働時間をいいます。従業員が働くべき時間のことです。多くの会社では「1日8時間・週5日勤務」といった形で定めています。
一方、「法定労働時間」とは、労働基準法が定める「1日8時間・週40時間」という上限ラインです。所定労働時間は、この法定労働時間の枠内で各企業が自由に設定できます。
| | 所定労働時間 | 法定労働時間 |
| 定めるのは | 各企業(就業規則・雇用契約) | 国(労働基準法) |
| 内容 | 実際に働く時間として会社が設定 | 超えてはならない上限ライン |
| 目安 | 会社ごとに異なる | 1日8時間・週40時間 |
(1)なぜ「月平均」を算出する必要があるのか
月には28日〜31日と日数の違いがあり、祝日の数も月によって異なります。そのため、毎月の所定労働時間は微妙に変動します。もし残業代の計算基礎をその月ごとの実際の所定労働時間で計算すると、「1時間あたりの単価」が月によってバラバラになり、計算が複雑になるだけでなく、従業員が不利益を受ける場面も生じます。
そこで実務上は、1年間を通じて平準化した「月平均所定労働時間」を用います。これを残業代(割増賃金)の計算や最低賃金の確認に使うことで、安定した給与計算が実現できます。
第2章. 【計算式】月平均所定労働時間の正しい計算方法
では実際に、月平均所定労働時間を計算してみましょう。STEP形式でご説明します。
STEP1:年間の休日数を確認する
まず「年間所定休日日数」を確認します。これは就業規則に定められた、労働義務のない日の合計です。
● 土曜・日曜日
● 国民の祝日
● 夏季休暇・年末年始休暇
● その他会社が定める特別休日
これらを合計した日数が「年間所定休日日数」となります。
STEP2:1日の所定労働時間を確定させる
就業規則や雇用契約書に記載された、休憩時間を除いた実働時間を確認します。例えば「9時〜18時(休憩1時間)」であれば、1日の所定労働時間は8時間です。
STEP3:計算式に当てはめる
【計算式】
・月平均所定労働時間 = {(365日 - 年間所定休日日数)× 1日の所定労働時間} ÷ 12(か月
※うるう年の場合は366日を使用してください。
計算例①:年間休日125日(完全週休2日制+祝日休み)の場合
大企業・中堅企業では標準的なパターンです。
| 計算ステップ | 内容 | 結果 |
| 年間所定労働日数 | 365日 - 125日 | 240日 |
| 年間総所定労働時間 | 240日 × 8時間 | 1,920時間 |
| 月平均所定労働時間 | 1,920時間 ÷ 12か月 | 160.0時間 |
この場合の月平均所定労働時間は「160時間」となります。残業代計算の際には、この160時間が分母になります。
計算例②:年間休日105日(隔週休2日・祝日出勤あり)の場合
製造業・サービス業などで見られるパターンです。
| 計算ステップ | 内容 | 結果 |
| 年間所定労働日数 | 365日 - 105日 | 260日 |
| 年間総所定労働時間 | 260日 × 8時間 | 2,080時間 |
| 月平均所定労働時間 | 2,080時間 ÷ 12か月 | 173.3時間 |
この場合は「173.3時間」となります。休日数が20日少なくなると、月平均で約13時間も変わることがわかります。この差は残業代の時間単価にも大きく影響します。
第3章. 特殊な働き方の計算パターン
(1)1か月単位の変形労働時間制の場合
繁忙期と閑散期が明確な業種(小売業・飲食業など)では、「1か月単位の変形労働時間制」を採用するケースがあります。この制度では、1か月を平均して週40時間以内に収まれば、特定の日や週に8時間・40時間を超える所定労働時間を設定することが可能です。ただし、以下の点に注意が必要です。
| 注意点 | 内容 |
| 上限の確認 | その月の暦日数に応じた法定労働時間の上限以内に収めること |
| 事前の特定 | 開始前に、各日の労働時間をシフト表等で具体的に特定・周知すること |
| 労使協定または就業規則 | 導入には就業規則また労使協定への明記が必要 |
| 届出 | 所轄労働基準監督署への届出 |
なお、月の暦日数別の法定労働時間の上限は以下の通りです。
| 月の暦日数 | 法定労働時間の上限 |
| 28日(2月) | 160.0時間 |
| 29日 | 165.7時間 |
| 30日 | 171.4時間 |
| 31日 | 177.1時間 |
(2)シフト制・フレックスタイム制の注意点
シフト制勤務の場合は、シフトごとの所定労働時間が異なるため、「月の総所定労働時間」を設計段階で明確にしておくことが重要です。シフト表の作成時に、合計が月の法定上限を超えないよう注意してください。
フレックスタイム制を採用している場合は、日単位ではなく「清算期間(最長3か月)」の総労働時間で管理します。時間外労働の判定は、清算期間における法定労働時間の総枠を超えた時間で行います。日々の労働時間にとらわれず、期間全体で管理するという発想の転換が必要です。
第4章. 残業代計算との深い関係(端数処理と単価設定)
(1)1時間あたりの基礎賃金の出し方
月平均所定労働時間の最も重要な役割は、「残業代(割増賃金)の時間単価」を算出するための分母になることです。
・1時間あたりの基礎賃金= 月給(所定内給与) ÷ 月平均所定労働時間
例えば、月給25万円・月平均所定労働時間160時間の場合:
250,000円 ÷ 160時間 =1,562.5円(時間単価)
この単価に割増率を掛けて残業代を算出します。
(2)割増賃金の計算(割増率一覧)
| 残業の種類 | 割増率 |
| 法定時間外労働(月60時間以内) | 25%以上 |
| 法定時間外労働(月60時間超) | 50%以上 |
| 深夜労働(22時〜翌5時) | 25%以上 |
| 法定休日労働 | 35%以上 |
| 法定時間外 + 深夜 | 50%以上 |
| 法定休日労働 + 深夜 | 60%以上 |
(3)計算から除外できる手当
残業代の基礎となる月給(分子)には、以下の手当を含める必要はありません(除外が認められる手当)。
| 除外できる手当 | 注意点 |
| 家族手当 | 家族構成に応じて金額が変わるものに限る |
| 通勤手当 | 実費相当分 |
| 住宅手当 | 住宅の形態に応じて金額が変わるものに限る |
| 別居手当・子女教育手当 | - |
| 臨時に支払われた賃金 | 結婚手当など |
| 1か月超の期間ごとに支払われる賃金 | 賞与など |
(4)端数処理のルール
残業代計算における端数処理には、法律上のルールがあります。正しく理解しておきましょう。
| 処理対象 | ルール |
| 1か月の時間外・休日・深夜労働の合計時間数の端数 | 30分未満は切り捨て・30分以上は1時間に切り上げ(可) |
| 1日の労働時間の端数切り捨て | 原則として認められない |
| 賃金額の端数(50銭未満) | 切り捨て可。50銭以上は1円に切り上げ |
1日単位での切り捨ては違法です。必ず1か月単位でまとめて端数処理を行ってください。
第5章. なぜ毎年変わるのか?カレンダーによる変動と就業規則の書き方
「月平均所定労働時間は毎年変わるのですか?」というご質問をよくいただきます。
結論から申し上げると、「月平均所定労働時間」そのものは、年間休日日数と1日の所定労働時間が変わらなければ、毎年変動しません。計算式の「365日」は基本的に固定だからです(うるう年のみ366日)。
ただし、「各月の実際の所定労働時間」は毎年変動します。祝日が土曜日に重なる年は実質的な休日が減り、所定労働日数が増えるためです。だからこそ「月平均」を使う意義があります。
(1)就業規則への正しい記載方法
就業規則には、計算根拠を明確に記載しておくことが重要です。以下の項目は必ず明記してください。
● 1日の所定労働時間(始業・終業・休憩時間)
● 年間所定休日日数
● 休日の具体的な定め方(土日・祝日・夏季・年末年始など)
● 変形労働時間制を採用する場合はその旨と変形期間
うるう年の取り扱いについても、「うるう年は366日で計算する」と明記しておくと丁寧です。
(2)就業規則に直接数値を記載する場合の注意
就業規則に「月平均所定労働時間は○○時間とする」と直接数値を記載している会社があります。この場合、年間休日日数を変更した際に、この数値の改定を忘れると、実態と就業規則が乖離してしまいます。「計算式を明記する」方式のほうが、改定漏れのリスクを防ぐことができます。
第6章. よくある間違いとリスク:月200時間を超える設定は可能か?
(1)月平均所定労働時間の法的上限
「繁忙期があるので、所定労働時間を多めに設定したい」というご要望をいただくことがありますが、月平均所定労働時間には法的な上限があります。
法的上限の計算式:
365日 ÷ 7日 × 40時間 ÷ 12か月 ≒173.8時間
→ 月平均所定労働時間は「173.8時間」を超えて設定することはできません。
つまり、月200時間を超える所定労働時間の設定は、法定労働時間違反となります。
(2)特例措置対象事業場の場合
ただし、常時10人未満の労働者を使用する以下の業種については、週の法定労働時間が44時間に緩和されています(特例措置対象事業場)。
● 商業(小売業・卸売業など)
● 映画・演劇業
● 保健衛生業
● 接客娯楽業
この場合の月平均の上限は、365日 ÷ 7日 × 44時間 ÷ 12か月 ≒ 191.1時間となります。
(3)長時間労働による過労死ラインへの注意
所定労働時間の設定が法的上限内であっても、実際の時間外労働が重なると、過労死ラインに達するリスクがあります。以下の基準を常に意識してください。
| リスク水準 | 基準 |
| 要注意ライン | 時間外・休日労働が月45時間超(36協定の原則限度) |
| 過労死との関連が強い水準 | 1か月間に100時間超、また2〜6か月平均で80時間超 |
| 医師面接指導の義務 | 時間外・休日労働が月80時間超で、本人から申し出 |
第7章. まとめ:適正な労働時間管理で労務リスクを回避する
本記事のポイントを整理すると、以下のとおりです。
| チェック項目 | 確認内容 |
| 計算式の確認 | {(365日 - 年間休日数)× 1日の所定労働時間} ÷ 12 |
| 法的上限の確認 | 月平均173.8時間(特例事業場は191.1時間)以内 |
| 就業規則への明記 | 計算根拠(年間休日・1日の所定時間)を明記する |
| 残業代計算の確認 | 月給 ÷ 月平均所定労働時間 = 時間単価 |
| 端数処理の確認 | 1か月単位で行い、1日単位の切り捨ては行わない |
| 36協定の締結 | 残業をさせるには労使協定の締結・届出が必要 |
月平均所定労働時間は、「残業代の単価」「最低賃金のチェック」「変形労働時間制の設計」など、給与計算・労務管理のあらゆる場面の土台となる数字です。この数字が間違っていると、残業代の未払いや労基署への対応など、さまざまな問題に発展する可能性があります。
自社の就業規則と計算根拠を今一度ご確認いただき、少しでも不安があればお気軽に専門家にご相談ください。
【投稿者:社会保険労務士 大髙 秀樹】
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