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熱中症対策義務化とは?対象となる条件と事業者の具体的役割を解説(2026.5.8)

「熱中症対策って、以前から言われているけど…うちの会社は大丈夫?」

そんな疑問をお持ちの経営者・人事担当者の方はいませんか?実は2025年(令和7年)61日より、職場における熱中症対策がついに法的に義務化されました。

これまでは努力義務や啓発キャンペーン(「STOP!熱中症クールワークキャンペーン」)の位置づけでしたが、今後は法令違反として罰則の対象になる可能性があります。本記事では、義務化の内容・罰則・実務対応のポイントをわかりやすく解説します。

 

 

1. 熱中症対策義務化とは?

 

2025年(令和7年)6月より、労働安全衛生規則の改正が施行されました。これまで啓発活動の一環として推奨されてきた熱中症対策が、事業者の法的義務として明確に規定されたのです。

 

この改正のポイントは大きく3つです。

 

(1) 報告体制の整備

労働者が熱中症の兆候を感じた際、または周囲が異変に気づいた際に、速やかに報告できる体制を整えること。

 

(2) 重篤化を防ぐ手順の作成

作業からの離脱・身体冷却・医師の診察などの応急処置手順をあらかじめ定めること。

 

(3) 関係作業者への周知

作成した手順や緊急連絡先を、現場で働く全ての労働者に周知すること。

 

また、この義務化の対象は建設業・製造業といった屋外作業に限りません。社会福祉施設や病院といった室内施設も対象に含まれる点に注意が必要です。「うちは事務所だから関係ない」と思わず、まずは自社の作業環境を確認することが大切です。

 

 

2. 熱中症対策が義務付けられる作業の条件

 

(1)「熱中症を生ずるおそれのある作業」とWBGT

義務化の対象となるのは、単純な「屋外作業」ではなく、暑さ指数(WBGT)等の条件により「熱中症を生ずるおそれがある」と客観的に判断されるすべての作業です。具体的な条件は以下の通りです。

 

【対象となる作業の条件】

・ 暑さ指数(WBGT)が28度以上、または気温が31度以上の環境

・ 連続1時間以上、または1日合計4時間を超える作業

 

WBGT(湿球黒球温度)とは、気温・湿度・輻射熱の3要素を組み合わせた指標です。気温が同じでも、湿度が高かったり直射日光の当たる環境ではWBGT値が高くなります。作業場所に測定器を設置し、随時測定と記録することが推奨されています。

なお、通気性の悪い作業服(つなぎ服など)を着用している場合は、測定値に一定の数値を加算して評価する「着衣補正」も必要です。装備の実態に合わせた管理が求められます。

 

(2WBGT値の具体的測定方法

 WBGT値については、作業場所にWBGT 指数計を設置する等により、実測することが望まれます。使用するWBGT指数計は、JIS Z8504またはJIS B7922に適合したものを用いることが求められます。

 

<使用方法および注意点は以下のとおりです。>

・屋内では熱源に最も近い位置で測定する

・定位置は、床上0.51.5

・屋外では乾球に直射日光が当たらないよう温度計を日陰に置く

・自然湿球温度計は、自然気流中で測定する

・黒球温度は、15分以上放置後に測定する

・基準値超過が予測されるときは、作業中に測定する 等

 

 

3. 熱中症対策義務化により企業に求められる具体的対応

 

(1)実務対応チェックリスト:準備期間(4月)

夏本番を迎える前の4月中に、以下の体制整備を済ませておきましょう。「シーズンになってから考える」では遅すぎます。

 

【準備期間の対応チェックリスト】

□ 労働衛生管理体制の確立(担当者の選任・役割の明確化)

□ 暑さ指数(WBGT)の把握準備(測定器の手配・設置場所の確認)

□ 作業計画の策定(暑熱作業の洗い出し・スケジュール調整)

□ 設備対策の検討(休憩場所の確保・冷房・ミスト設備の点検)

□ 緊急時対応手順の作成(フローチャートの整備・連絡先の確認)

□ 教育・研修体制の整備(熱中症の知識・初期対応の周知計画)

 

(2)実務対応チェックリスト:キャンペーン期間(5月〜9月)

 

シーズン中は継続的な管理が求められます。以下を日常業務として組み込んでください。

 

【キャンペーン期間(5月〜9月)の対応チェックリスト】

□ 暑さ指数(WBGT)の定期測定と評価(13回以上)

□ 物理的な暑さ低減措置の実施(日よけ・通風・冷房設備の稼働)

□ 休憩場所の整備・冷却ベストや通気性の良い服装の活用

□ 休憩時間の確保・激しい作業の時間帯の見直し

□ 水分・塩分の摂取促進(飲料水・塩飴の配備)

□ 暑熱順化の実施(新規入職者・休み明け労働者への7日以上の段階的慣れ)

□ 毎朝の体調確認(睡眠・前日飲酒・朝食の確認)

□ 重点取組期間(7月)の追加対策の実施

 

 

4. 熱中症対策として職場でやらなければいけない「4つのこと」

 

現場で機能する運用体制の構築

 

法令が求める義務を整理すると、職場で最低限やらなければいけないことは以下の4点に集約されます。どれか一つが欠けても「整備された体制」とは言えません。

 

(1) 熱中症を起こしやすい職場とそこで働く人の把握

WBGT値が高くなりやすい作業場所・時間帯を洗い出すとともに、高齢者・持病(糖尿病・高血圧・心疾患など)がある労働者など、特にリスクが高い方を把握しておくことが重要です。

 

(2) 現場で熱中症を疑った時の連絡体制づくり

「誰が・誰に・どうやって報告するか」を明確にし、緊急連絡先(救急・産業医・上長)を現場に掲示します。派遣社員やパートタイム労働者も含め、全員が迷わず行動できる体制が必要です。

 

(3) 熱中症を疑ったときの措置(フローチャート)の作成

軽症・中等度・重症の各段階に応じた応急処置手順をフローチャートで整備し、現場に掲示しておきます。「誰でも見ればわかる」レベルにまで落とし込むことがポイントです。

 

(4) 措置を現場で働く人に周知させる

いくら立派なフローチャートを作っても、労働者が知らなければ意味がありません。朝礼・安全教育・掲示板などを活用し、全員への周知を徹底してください。

 

 

【専門家コラム】データ活用と社内風土づくりの重要性

 

WBGTを測定し、チェックリストを整備する——それだけで「熱中症対策をやっている」と思っていませんか?実務の現場では、数値を計測するだけでなく、それをどう組織改革に活かすかが問われています。

社労士として現場に伴走してきた経験から言えることは、「体調が悪いと言い出せる雰囲気があるかどうか」こそが、熱中症事故を防ぐ最大の鍵だということです。管理者が率先して「休憩を取れ」と声がけする文化があるかどうか、それが法令対応と実効性の差を生みます。

また、復職時の診断書の見極めや、持病を持つ労働者への個別配慮など、産業医・社労士との連携が不可欠な場面も増えています。数値管理と人事管理を一体で進める「人事伴走型」の熱中症対策が、今こそ求められています。

 

 

5. 熱中症対策義務化に違反した場合の罰則

 

企業が負うべき4つの重大責任

 

「対策が不十分だった」では済まされない時代になりました。万が一、労働者が熱中症で倒れ、企業側の対策不足が認められた場合、以下の4つの重大なリスクが発生します。

 

(1) 刑事罰

労働安全衛生法違反として書類送検される可能性があります。悪質なケースや是正勧告に従わない場合、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科せられることがあります。

 

(2) 行政処分

労働基準監督署による立入調査が実施され、是正勧告・使用停止命令が発令されるリスクがあります。一度勧告を受けると、その後の監督も厳しくなります。

 

(3) 民事責任

安全配慮義務違反として、被災した労働者やそのご遺族から損害賠償を請求されるリスクがあります。過去の裁判例では、企業への賠償額が多額に上るケースも少なくありません。「罰金より損害賠償の方が怖い」——そう認識している経営者の方も多いのではないでしょうか。

 

(4) 社会的信用の低下 

メディア報道やSNSによる情報拡散により、企業イメージが著しく低下します。採用活動への悪影響はもちろん、取引先との関係にも深刻なダメージを与えることがあります。

 

 

6. 実務で使える熱中症対策の「TIPS」とアラート対応

 

熱中症警戒アラート・特別警戒アラートへの備え

 

政府は、改正気候変動適応法に基づき、2種類のアラートを運用しています。アラートが発表された際は、法令の「最低基準」を超えた対応が求められます。

 

【熱中症警戒アラート(通称:警戒アラート)】

・ 発表基準:暑さ指数(WBGT)が33以上と予測される場合

・ 運用期間:毎年4月下旬頃〜10月下旬頃

・ 企業の対応:不要不急の外出・作業を避け、のどが渇く前の水分・塩分補給を徹底させること

 

【熱中症特別警戒アラート(通称:特別警戒アラート)】

- 発表基準:広域的に暑さ指数(WBGT)が35以上になると予測される、極端な高温状況

- 企業の対応:全ての人が熱中症対策を徹底できているか確認し、徹底できない場合は作業・運動の中止・延期・リモートワークの実施を判断しなければならない

 

「知らなかった」では通用しない時代です。気象情報と連動した体制を今すぐ整えておきましょう。

 

現場で今すぐ実践できる3つのTIPSを紹介します。

 

TIP 1:クールダウンできる環境をつくる

冷房の効いた休憩室・日陰スペースを確保し、10時・15時に必ず15分間の「クールブレイク」を設けましょう。A社(建設業)では、このルールを導入してから熱中症の発生件数がゼロになった事例もあります。

 

TIP 2:一人作業を避け、相互に体調を確認する

ペア・グループ作業を基本とし、「顔色が悪い」「返事が鈍い」「ふらついている」など異変のサインを見逃さない体制をつくりましょう。B社(製造業)ではウェアラブル温度計を活用し、一定温度を超えるとアラートが鳴る仕組みを導入しています。

 

TIP 3:従業員教育を通じて「熱中症を知る」

尿の色による脱水チェック、暑熱順化の意味、応急処置の手順を、シーズン前に全員へ周知しましょう。「知っている」と「できる」は違います。実際にやってみる訓練が大切です。

 

 

7.まとめ:法令対応は「信頼への投資」

 

運用ができて初めて「整備」といえる

 

「義務だから仕方なく」ではなく、管理者こそがカギを握り、実効性のある体制を整えることが、結果として企業の信頼に繋がります。書類を作って棚にしまうだけでは意味がありません。現場で機能して初めて「整備した」と言えるのです。

 

202561日施行の法改正により、熱中症対策は企業の「法的義務」となった。

・ 義務化の対象はWBGT 28度以上・連続1時間以上など一定条件を満たす作業全般(室内施設も含む)。

・ やらなければいけない「4つのこと」:職場把握・連絡体制・措置フロー・周知徹底。

・ 違反した場合は刑事罰・行政処分・民事賠償・社会的信用失墜の4大リスクが発生する。

・ 熱中症警戒アラート(WBGT 33以上)・特別警戒アラート(WBGT 35以上)発令時には、法令を超えた対応が求められる。

・ 「体調が悪いと言い出せる職場風土」と「科学的なWBGT管理」の両輪が、実効性ある対策の核心である。

自社の熱中症対策に不安をお持ちの方、体制整備のご相談は社会保険労務士にお気軽にお問い合わせください。個別の状況に合わせた実務的なアドバイスをいたします。

 

 

   【投稿者:社会保険労務士 大髙 秀樹】

 

 

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