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協会けんぽ 健康保険料の「仕組み」と2026年度からの「変更点」を徹底解説 ~基本・特定保険料から子ども・子育て支援金の開始まで~(2026.3.21)

協会けんぽ 健康保険料の「仕組み」と2026年度からの「変更点」を徹底解説

~基本・特定保険料から子ども・子育て支援金の開始まで~

 

1. はじめに:協会けんぽと国民皆保険の基盤

 

 全国健康保険協会(協会けんぽ)は、主に中小企業に勤務する被保険者とその家族を対象とする、国内最大規模の医療保険者です。少子高齢化の急速な進展と労働形態の多様化を背景に、保険料の算定根拠や賦課方式は近年、度重なる法改正によって複雑化しています。これらの仕組みを正確に把握することは、企業の労務コスト管理と従業員の可処分所得保護の両立を実現するための不可欠なことなのです。

 今回は、健康保険料の算定根拠となる標準報酬月額の仕組みから、保険料の内訳(基本保険料・特定保険料)、都道府県別料率の背景、そして2026年度から始まる「子ども・子育て支援金」の徴収開始まで、実務に直結するポイントを体系的に解説します。

 

 

2. 保険料算定の基礎:標準報酬月額と標準賞与額

 

(1) 標準報酬月額の等級体系

 健康保険料の計算基礎となるのは実際の賃金額ではなく、「標準報酬月額」という簡素化された区分値です。健康保険では第1等級(58千円)から第50等級(139万円)まで50段階に区分されており、厚生年金(上限65万円・32等級)と比べて高額所得層まで細分化されています。これは、高所得者にも応能負担を求めることで制度の再分配機能を維持するためです。

「報酬」の範囲は基本給のみならず、役職手当・家族手当・住宅手当・残業代・通勤手当など、労務の対価として経常的に支払われるすべてのものが含まれます。特に通勤手当は所得税では非課税限度額が設定されていますが、社会保険料の算定では全額が報酬に含まれる点は実務上の誤りが頻出するポイントです。

 

(2) 標準賞与額と年度累計上限

 賞与については「標準賞与額(支給総額から1,000円未満を切り捨てた額)」を基礎に保険料を計算します。健康保険の標準賞与額には、毎年41日から翌年331日までの年度累計で573万円という上限が設けられています。賞与支給時には「被保険者賞与支払届」の提出が必要であり、資格喪失日前日の賞与であっても届け出は必要です。

 

 

3. 保険料の内訳:基本保険料と特定保険料(高齢者支援金等)

 

 協会けんぽの健康保険料率は、単一の保険料ではなく、「基本保険料」と「特定保険料(高齢者支援金等分)」という2つの要素から構成されています。この区分を理解することは、制度の財政構造と保険料負担の意義を正しく把握する上で非常に重要です。また給与計算ソフトにも基本保険料・特定保険料を分けて入力するものもありますので良く理解してください。

 

(1) 基本保険料とは

 基本保険料は、協会けんぽの加入者(被保険者とその被扶養者)に対する療養の給付・高額療養費・傷病手当金・出産育児一時金など、いわゆる「自分たちの医療給付」を賄うための保険料です。

 都道府県ごとに医療費水準や加入者の年齢構成・賃金水準が異なるため、基本保険料率は各支部の収支見込みに基づいて毎年改定されます。地域の医療資源の充実度や高齢化率が高い都道府県では、1人あたりの医療費が増大するため、基本保険料率が高く設定される傾向があります。

 

(2) 特定保険料(高齢者支援金等)とは

 特定保険料は、「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づき、75歳以上が対象の後期高齢者医療制度(後期高齢者支援金)および6574歳が対象の前期高齢者医療費の財政調整に拠出するための保険料分です。

 日本の医療保険制度では、現役世代が加入する健康保険(協会けんぽ・組合健保等)が、高齢者医療を支える後期高齢者医療制度等に対して資金を拠出する「世代間扶養」の仕組みが組み込まれています。この拠出金の財源が特定保険料です。

 重要なのは、特定保険料率は全保険者で統一された計算式によって算出されるため、各都道府県の協会けんぽ支部の努力だけでは変えられない「外から決まる負担」だという点です。少子高齢化が進み後期高齢者が増加するほど、この拠出金額は膨らむ構造にあります。

 

(3) 2つの料率の合計=都道府県別保険料率

 私たちが目にする都道府県別保険料率(例:東京都 9.85%)は、この「基本保険料率」と「特定保険料率(高齢者支援分等)」を合算したものです。つまり、保険料率の地域差は主として基本保険料率の差に起因しており、特定保険料率部分は全国でほぼ共通の水準となっています。

 

| 保険料の種類 | 目的・拠出先          | 料率の決まり方         |

| 基本保険料  | 被保険者・被扶養者への医療給付 | 都道府県別(医療費・賃金水準) |

| 特定保険料  | 後期高齢者医療制度・前期高齢者医療費調整への拠出 | 全国統一計算 |

| 合 計    | 都道府県別保険料率(東京9.85%| 毎年度改定・労使折半      |

 

 

4. 都道府県別料率の格差と2026年度改定

 

 2026年度(令和8年度)は、全国平均保険料率が10.0%から9.9%へと0.1ポイント引き下げられ、40都道府県で料率が低下します。一方、青森・秋田・山形・栃木・神奈川・島根・沖縄の7県については、特例措置により前年度水準が維持されます。

 

| 都道府県    | 2025年度 | 2026年度 | 増減   |

| 北海道     | 10.31%  | 10.28%  | ▼0.03%  |

| 東京都     | 9.91%   | 9.85%   | ▼0.06% |

| 愛知県     | 10.03%  | 9.93%   | ▼0.10% |

| 大阪府     | 10.24%  | 10.13%   | ▼0.11% |

| 福岡県     | 10.31%  | 10.11%   | ▼0.20% |

| 佐賀県(最高) | 10.78%  | 10.55%    | ▼0.23% |

| 新潟県(最低) | 9.55%   | 9.21%   | ▼0.34% |

| 沖縄県     | 9.44%   | 9.44%   | →据置  |

 

最高の佐賀県(10.55%)と最低の新潟県(9.21%)の差は1.34ポイントにのぼり、標準報酬月額30万円の加入者では年間で数万円の負担差が生じます。

 

 

5. 介護保険料:2026年度の全国一律引き上げ

 

 4064歳の被保険者(第2号被保険者)は、健康保険料と合わせて介護保険料も負担します。介護保険料率は健康保険料率と異なり全国一律で、2026年度は現行の1.59%から1.62%0.03ポイント引き上げられます。介護サービス給付費の拡大と調整財源の減少が背景にあります。

東京都の例では、2026年度の総負担率(労使合計)は健康保険料率9.85%+介護保険料率1.62%11.47%となります。

 

 

6. 20264月開始:子ども・子育て支援金の実務対応

 

 2026年度最大の制度変更は、「子ども・子育て支援金」の新設です。全世代型社会保障の一環として、医療保険制度を通じた少子化対策財源の確保を目的に創設されました。

 

(1) 制度の概要と労使折半

 2026年(令和8年)4月分(5月納付分)より徴収が開始されます。従来の「子ども・子育て拠出金(0.36%)」は事業主全額負担でしたが、今回の「支援金」は健康保険料と同様に労使折半(それぞれ0.115%ずつ負担する点が大きな変更点です。協会けんぽの支援金率は0.23%に設定されています。

 

(2)  2段階の料率変更スケジュールに要注意

 翌月徴収の企業では、以下の2段階の変更を別々に対応する必要があります。

・令和83月分(4月支給分で控除):健康保険料率(都道府県別)・介護保険料率の変更

・令和84月分(5月支給分で控除):子ども・子育て支援金(0.23%)の控除開始

 

給与計算ソフトへの新項目追加・設定変更を誤ると、遡及計算や精算業務が発生します。事前にシステム担当者・ソフトベンダーとの連携体制を確認しておくことが不可欠です。

 

 

7. 随時改定・定時決定の実務ポイント

 

 標準報酬月額には「定時決定(毎年7月・算定基礎届)」と「随時改定(月額変更届)」の2つの調整弁があります。

 定時決定は4月・5月・6月の3ヶ月間の報酬平均を基に、9月から翌年8月の標準報酬月額を決定します。各月の支払基礎日数が17日以上(短時間労働者は11日以上)の月のみ算定対象となります。

 

随時改定の3要件は以下の通りです。

・ 固定的賃金(基本給・住宅手当等)に変動があること

・ 変動月から継続する3ヶ月間の支払基礎日数が全て17日以上(短時間労働者は11日以上)であること

3ヶ月の報酬平均に対応する等級と現在の等級との差が2等級以上であること

 

 残業代のみの増減では随時改定は行いませんが、基本給がわずかでも変動した際に残業代の影響で2等級以上の差が生じた場合は改定対象となります。変動のたびに必ず要件を確認することを推奨します。

 

 

8. コンプライアンス上の注意点

 

 保険料の適正化を名目とした標準報酬月額の意図的な引き下げには法的リスクが伴います。標準報酬を下げることは、傷病手当金・出産手当金(支給開始日前12ヶ月平均の標準報酬に基づく)や将来の年金額の減少という不利益を従業員に与える行為です。

 通勤手当は所得税上の非課税枠と社会保険上の報酬範囲が異なることを常に意識し、適正な届け出・計算を行う必要があります。社労士としては短期的なコスト削減だけでなく、従業員への丁寧な説明と同意を前提にした長期的な就業規則・賃金規程の整備を助言することが求められます。

 

 

9章.おわりに:制度の変化を「経営の安心」に変えるために

 

 2026年度は、健康保険料率の改定、介護保険料の引き上げ、そして「子ども・子育て支援金」の導入と、給与計算実務においてかつてないほど複雑な対応が求められる「正念場」となります。

 社会保険制度は、従業員の生活を守る大切なセーフティネットですが、その仕組みは年々複雑化しています。経営者様や担当者様がこうした制度変更の荒波に振り回されることなく、本来の業務に集中できるようサポートすることこそが、私たち社会保険労務士の使命です。

 当事務所では、最新の法改正に基づいた正確なアドバイスと、現場に即した実務支援を行っております。「今回の改定で自社の負担はどう変わるのか?」「給与計算の設定に不安がある」といった疑問がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。共に、従業員が安心して働ける環境づくりを進めてまいりましょう。

 

                   【投稿者:社会保険労務士 大髙 秀樹】

 

 

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