【第4回】令和8年度 労働保険年度更新!建設業のための労働保険年度更新攻略法を社労士が解説(2026.2.8)
【第4回】令和8年度 労働保険年度更新!建設業のための労働保険年度更新攻略法を社労士が解説
「現場の朝は早く、天候一つで予定が狂う。そんな過酷な最前線で指揮を執りながら、夜には一人、事務所で『事務手続き』と格闘している……。そのタフな精神力こそが、今の日本を支える建設会社の社長様の姿です。建設業の労働保険年度更新は、全業種の中で最も複雑な『二元適用』という専門家も間違安い難しいものです。
正直に言えば、今の段階では、『 建設業の労働保険年度更新 』を良く理解できていないかも知れません。でも、今はそれでいいんです。
その『無意識の危機管理能力』こそが、いくつもの現場を修羅場で切り抜けてきた社長様の本能であり、2月の今、ここに来てくださっただけで、社長の『リスク回避』は確定しているのです。
毎年6月~7月にかけて、建設業の経営者様や事務担当者様にとって、避けては通れない大きな業務がやってきます。それが「労働保険の年度更新」です。
労働保険(労災保険・雇用保険)は、現場で働く従業員や職人さんが安心して働ける環境を支える、非常に重要な制度です。その保険料を正しく計算し、申告・納付することは事業主としての重要な義務です。
しかし、建設業の場合、「一括有期事業」という独特の仕組みがあるため、一般の会社とは異なり計算や書類作成が非常に複雑です。「毎年この時期は憂鬱…」という方も多いのではないでしょうか。
本記事では、令和8年度の年度更新について、建設業の「一括有期事業」の実務ポイントまで、社会保険労務士の視点でわかりやすく解説します。
1.建設業の「一括有期事業」とは?
<単独有期事業と一括有期事業の違い>
建設業では、原則として個々のビル建設や道路工事を一つの事業単位として扱います。これを「単独有期事業」と呼びます。
しかし、数日で終わるような小規模な工事一つひとつについて手続きをするのは現実的ではありません。そこで、一定の要件を満たす小規模な工事については、複数の工事を一括して一つの事業として扱う特例制度が設けられています。これを「一括有期事業」と称します。
■対象となる主な要件(建設業)
以下の条件をすべて満たす元請工事であれば、まとめて(一括して)処理が可能です。
・ 元請工事であること
・ 請負金額が1億8千万円未満(税抜)
・ 概算保険料が160万円未満
・ 事業主が同一人であること
・ 一括しようとする各事業が建設の事業または立木の伐採の事業であること
・ それぞれの事業が有期事業であること
・ 各事業の労災保険率が同一であること
・ 各事業の保険料納付を担当する事務所が同一であること
【注意】
これを超える大規模な工事は「単独有期事業」となり、工事開始の都度、個別に保険関係成立の手続きと納付が必要です。年度更新でまとめて申告することはできませんのでご注意ください。
2.申告書作成の流れ(建設業・一括有期事業)
一括有期事業の場合、通常の申告書(緑色の用紙)に加えて以下の書類を作成します。
・ 一括有期事業報告書
・ 一括有期事業総括表
<Step1:【確定保険料用】工事の洗い出し:一括有期事業報告書の作成>
まずは、昨年度(令和7年4月1日~令和8年3月31日)の間に終了した元請工事をすべてリストアップします。ここで重要なのは、「工事がいつ終わったか(引渡し日)」です。年度をまたぐ工事の場合、終了した年度で集計を行います。工事台帳をもとに、小規模な修繕工事なども漏れがないよう丁寧に拾い出しましょう。
一括有期事業報告書の記入については「事業の種類」ごとに記載することになります。特に35事業「建築事業」と38事業「既設建築物設備工事業」は分けて記載することが多いので混同しないようご注意願います。
<Step2:【確定保険料用】工事の洗い出し:一括有期事業総括表の作成>
一括有期事業報告書に記入していただいた工事をとりまとめるのが総括表です。
一括有期事業報告書から、総括表で分類してある事業の種類、事業開始時期ごとに「一括有期事業報告書」の「請負金額」と「賃金総額」欄の金額を「一括有期事業総括表」の該当する箇所に転記してください。その額に、該当する労災保険率を乗じて業種ごとの保険料額を計算します。
メリット制が適用されている事業場は、昨年度送付している「労災保険率決定通知書」により保険料額を計算することになります。工事開始年度によっては、労務費率・保険料率が違う場合がありますので十分注意して記載ください。
【間違いやすいポイント】
一括有期事業に該当する工事について、その一部が一括有期事業報告書に記載されておらず、該当する工事の請負金額に不足が生じたまま、賃金総額・保険料が算定されていることがあります。請負金額500万円未満の工事は取りまとめて記入できますが、抽出漏れがないように注意願います。
<Step3:賃金総額の把握>
労災保険料は原則として「支払った賃金総額 × 保険料率」で計算します。
しかし、建設業では数多くの下請業者が入り混じるため、全労働者の賃金を把握するのは困難です。そこで認められているのが、「請負金額 × 労務費率」による特例計算(みなし計算)です。実務上、ほとんどの建設業者様がこの方式を採用しています。
但し、大手企業のように、下請についても賃金・労働時間が把握出来る場合には通常の労働保険の計算と同じように賃金建てで労働保険の計算を行うことも可能です。
しかしながら、建設業の現場には、元請・一次下請けから三次下請け、大規模工事になりますと五次下請けまでいる場合があります。また一人親方等が現場に入っている事も多いです。そのような状況で、現場への入退出時間の把握や社会保険加入状況等の完全把握等は中小事業者には困難であるものと考えられるため、実質的には、労務費率により計算する一括有期事業による年度更新を行うことになります。
<Step4:申告書への転記>
報告書・総括表で算出した「確定保険料(昨年度の実績)」と「概算保険料(今年度の見込み)」を申告書へ記入し、過不足額を計算して完成となります。
3.実務で間違えやすい重要ポイント5選
社労士が実務でよく目にする「間違いやすいポイント」をまとめました。
①消費税の取り扱い(最重要)
請負金額を使って計算する場合、「消費税を除いた金額(税抜)」で計算します。
ここを税込のまま計算してしまい、保険料を多く払いすぎてしまうケースが後を絶ちません。
例外として、平成25年9月30日以前工事開始の場合には消費税を含む場合も一部ありますが、中小事業者の場合にはほとんど該当しないでしょう。
②一般拠出金の計算漏れ
石綿(アスベスト)健康被害救済のための「一般拠出金」の申告も必須です。
・ 料率:1,000分の0.02
非常に小さな金額ですが、計算・記載漏れが非常に多い項目です。
③メリット制の確認
過去の労災事故の発生状況に応じて、保険料率が最大40%増減する「メリット制」が適用されている場合があります。送られてきた申告書や通知書に記載された料率を必ず確認し、正しい率を使いましょう。
④元請工事がなかった年
たまたま元請工事の実績がゼロだった年でも、「0円」での申告手続き自体は必要です。
「実績がないから何もしなくていい」と放置してしまうと、未申告扱いとなってしまいます。
⑤申告書記載時の注意事項
建設業は、労災保険と雇用保険を別個として取扱い、保険料の申告・納付をそれぞれ個別に行う事業です。原則としましては下記の通りの申告書を作成することになります。
・ 労災保険(一括有期事業) …… 労働保険年度更新申告(建設事業):労働保険末尾05
・ 労災保険(事務所就労者) …… 労働保険年度更新 :労働保険末尾06
・ 雇用保険 …… 労働保険年度更新 :労働保険末尾02
*事務組合加入事務所、状況によっては上記と相違する場合がありますので、ご不明な場合には管轄労働基準監督署等にご相談願います。
4.保険料の分割納付(延納)
概算保険料が40万円(建設業等は20万円)以上の場合、申告時に希望すれば年3回の分割納付が可能です。(金額については事務組合等加入事業者除く)
・ 第1期:7月10日(申告時)
・ 第2期:10月31日
・ 第3期:翌年1月31日
延納を希望する場合は、申告書の該当欄に「3」と記入するのを忘れないようにしましょう。
5.まとめ
労働保険の年度更新は、単なる事務作業ではなく、保険料コストの適正化(払いすぎ防止)、コンプライアンス維持、 万が一の労災リスク管理につながる経営上の重要な手続きです。
特に建設業の一括有期事業は、「工事の抽出」「税抜処理」「正しい料率の適用」など専門知識が必要な場面が多く、毎年頭を悩ませる企業様も少なくありません。
「計算が合っているか不安」「電子申請に切り替えたいがやり方がわからない」「本業が忙しくて手続きの時間が取れない」
このようなお悩みがありましたら、ぜひお近くの社会保険労務士にご相談ください。専門家が正確かつ迅速にサポートいたします。
令和8年度の年度更新をスムーズに終えるためにも、余裕を持って準備を進めていきましょう。
【次回予告】
次回は、いよいよ最終話です。 いままでの注意点、間違いやすいポイント等を説明し『労働保険年度更新』攻略法をお届けします。
▼ 【完全保存版】令和8年度 労働保険年度更新!徹底解説シリーズ一覧
第1話:「銀行の行列」を回避するスケジュールとプロの注意点
( https://www.ohtaka-sr.jp/info/20260130124803.html )
第2話:調査で狙われる「対象者・賃金の範囲」と、判断ミスの急所
( https://www.ohtaka-sr.jp/info/20260202195834.html )
第3話:『申告書』書き方の急所と「初心者が間違えを回避する」具体的方法
( https://www.ohtaka-sr.jp/info/20260206155628.html )
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