【労災対策・第5話】『労災・労働保険を味方につける!社労士が教える安全経営のコツ 『最終章。「怖い制度」から「会社を守る制度」へ。』(2025.12.1)
労災・労働保険を味方につける!社労士が教える安全経営のコツ
~最終章。「怖い制度」から「会社を守る制度」へ~
「保険料がもったいない」と思っていませんか?
その認識を変えることが、安全経営の第一歩です。
「労災」と聞くと、社長にとってはどうしても怖いイメージがつきまといます。
・事故が起きたらどうしよう
・手続きを間違えたらどうなる?
・調査、臨検が来たら対応できるのか?
経営者であれば必ず抱える不安です。しかし本来、労災や労働保険は会社を守るために存在する制度です。制度を正しく理解すれば、不安は安心に変わり、会社のリスクは大幅に減ります。
なお、社長が負うべき法的な責任や、労災の基礎知識については、 👉 シリーズ第1話『社長の責任と労災の基礎等』 で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
(https://www.ohtaka-sr.jp/info/20251031192137.html)
まず大前提として、法律では使用者の責任が明確に定められています。 『労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。』
『労働者が労働災害による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の100分の60の休業補償を行わなければならない。』(労働基準法第76条)
さらに、労災保険は1947年の制度発足以来、「独り歩き」と言われるほど進化しています。
障害補償の年金化や通勤災害の補償など、労働基準法が定める最低ラインを超えた手厚い補償(特別支給金など)が用意されています。これは、社長が従業員を大切にするための「強力な武器」なのです。
2. なぜ中小企業こそ「労災・労働保険」を正しく使いこなすべきなのか
中小企業の労災対応は、経営の存続に直結します。
・労災給付が遅れれば、従業員との信頼関係が崩壊する
・労災隠しの噂が広がれば、採用力が地に落ちる
・建設業の場合、社長自身が労働保険の特別加入をしていなければ、現場に入ることさえできない
ちなみに「特別加入制度」とは、本来従業員しか加入できない労働保険に、社長や役員が加入できる特例制度です。
業種ごとに規模の制限(小売業は常時50人以下、サービス業は100人以下、最大でも300人以下)があり、まさに中小企業の社長だけに許された特権です。
だからこそ、「制度を味方にする」ことが、大企業以上に重要なのです。 労災手続きが正確に行われ、労働保険の加入・年度更新が整っている会社は、万が一の事故後も揺らぎません。これは、社長にとってお金に代えられない最大の安全資産になります。
3. 社労士が見てきた「事故が起きても揺るがない会社」の共通点
事故に強い会社は、例外なく以下の3つを整えています。
① 日々の安全対策が「形」でなく「仕組み」として存在する
単に「気をつけろ」と言うだけでなく、KY活動(危険予知活動:例えば作業前に『ここは滑りやすいからマットを敷こう』と皆で確認すること)や、危険箇所の明文化、ルールの更新などが日常的に行われています。
② 労災保険・労働保険の手続きが正確で、記録が残っている
年度更新、雇用契約、出退勤記録、事故発生日誌などが常に整備されています。「あれ、書類はどこだっけ?」がない状態です。
③ 事故発生後の指揮命令系統が明確 「誰が、何を、どの順序で対応するか」が定まっています。
労災事故の多くは『転倒、動作の反動・無理な動作による腰痛、高所からの墜落・転落』です。 自社の作業内容を把握し、これらの防止策を立てておく。そして「もし起きたら、どの病院に行くか」を事前に決めておく。これだけで、現場は何も慌てる必要がなくなります。事故の有無ではなく、こうした見えない「地力」が会社の運命を左右するのです。
4. 【安全経営の核心】事故を防ぐ会社は「労災制度」を理解している
制度理解は現場改善と直結します。
・どんな行動が労災の対象になるか
・どの作業に危険性が高いか
・どのようにして業務災害を防ぐのか
・どこに業務関連性の境界線があるのか
これらを知ることで、社長も現場も「どこを強化すべきか」が明確になります。 労災制度はただの法律ではなく、安全対策の羅針盤でもあるのです。
5. 労働保険を味方にする3つのステップ
労働保険が「会社の盾」になるために必要なのは、たった3つです。
① 制度の正しい理解 複雑に見えても、要点を押さえれば難しくありません。わからなければ、私たち専門家に聞いてください。
② 正確な手続き 年度更新、雇用保険の資格取得・喪失、賃金総額の把握など。これが一つでも欠けると、事故時に大きな負担がかかります。忙しければ、専門家に任せてください。
③ 事故時の初動対応 最初の30分の判断が、その後の労災認定の結果や、会社の社会的信用に直結します。
この3つを整備するだけで、会社の「守備力」は一気に上がります。
6. 勝負は最初の30分!被害と迷いを最小化する「初動マニュアル」の作り方
事故の恐怖を減らす最も効果的な方法は、「初動の手順」を事前に決めておくことです。
・安全確保(救急要請、二次災害防止のための現場保全)
・事実確認(作業内容・状況・指揮命令系統の確認)
※ポイント:スマホで現場の写真を3枚撮るだけでも、後の証拠能力が段違いです。
・記録作成(写真、作業指示の内容、目撃者の証言メモ)
・社労士または担当者への連絡
・労災申請の準備
初動が正確であれば、労災認定の遅れや誤解、トラブルの多くは避けられます。
7. 社長がやってはいけないNG対応と、やるべき正しい判断
現場で実際に多い、やってはいけない「NG例」です。
①「大したケガじゃないから様子を見よう」 → 症状が悪化したり、病院に行くのが遅れて休業補償の受給日数が減ったりします。労災申請が遅れ、トラブルの原因になります。
②「会社の責任になると困るからプライベート扱いに」 → 事実隠しは最悪の選択です。後で発覚した時の社会的制裁は計り知れません。
③「保険料のメリット料率(割引)が変わるからプライベート扱いに」 → これも労災隠しです。いつ従業員が事実を労基署に申告するか怯えることになります。また、後日労災に切り替える場合、健康保険の精算や療養費請求の手間が膨大になります。
正しい判断は「事実を整理し、制度に沿って淡々と処理する」こと。 その冷静な判断をサポートするために、専門家が存在します。
8. 専門家に頼むと、社長の判断が正しくなる
事故が起きてから慌てる会社と、起きる前から備えている会社。 その違いは「相談できる専門家がいるかどうか」です。
多忙な社長には、他にやるべきことが山のようにあります。 大切なお客様との商談の後、あるいは銀行とのタフな交渉の後で、「社長が一人、夜な夜なネット検索して労災事故について悩み続ける時間」。
これは、あまりにも無駄で、孤独な時間ではないでしょうか?
社長の不安を減らし、記録整備を習慣化し、手続き漏れを防ぎ、事故時の初動も迅速に行う。 専門家を利用し、社長の判断を常に「正確」に保つことは、会社を守るための必要経費(投資)なのです。
9. まとめ:制度を恐れる経営から制度を活かす経営へ
労災も労働保険も、本来は「会社を守る制度」であり、「労働者を守る制度」です。 正しく扱えば、事故のリスクは大きく減り、社員の安心と会社の信頼を高めます。
制度を恐れる必要はありません。 大切なのは、知り、整え、備えること。そして、やってはいけない事をやらないこと。
わからないことがあれば、専門家や行政機関に頼れば良いのです。
社長の冷静な判断と、小さな仕組みづくりが、会社の未来を守ります。
10. 最終話のお礼:全5話をお読みいただき、誠にありがとうございました
これまで全5話にわたり、「労災」「労働保険」「年度更新」「誤解」「制度の活かし方」について丁寧に解説してきました。 お忙しい中、読み進めてくださったことに、心より感謝申し上げます。
安全経営は一朝一夕ではなく、積み重ねと知識が大切です。 この記事が、社長の経営判断を支える一助となりましたら幸いです。
もし、自社の現状に少しでも不安を感じたり、「うちの場合はどうだろう?」と迷われたりした時は、いつでも私たちにご相談ください。
共に、揺るがない強い会社を作っていきましょう。
今後とも、御社の発展と安全を心よりお祈り申し上げます。
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