【労災対策・第4話】労働保険に加入しないとどうなる?ペナルティと後悔の実例 「ウチは関係ない」と思っていたら…。未加入リスクと行政対応の実例を紹介。(2025.11.20)
労働保険に加入しないとどうなる?ペナルティと後悔の実例「ウチは関係ない」と思っていたら…。未加入リスクと行政対応の実例を紹介。
1. 「ウチは小規模だから関係ない」は大誤解 ― 労働保険の加入義務
「従業員は1人だけだから」「パートだから」「短期で雇っただけだから」――
こうした理由で労働保険(労災保険+雇用保険)に加入していない事業所は少なくありません。
しかし、労働者を1人でも雇った瞬間に労災保険は強制加入です。(農業等の暫定任意適用事業等一部除く)規模は一切関係ありません。アルバイトでも、週数時間のパートでも、日雇いでも同じです。
さらに、週の所定労働時間が20時間以上等一定の条件を満たす労働者がいる場合は雇用保険も加入義務があります。
加入しないまま経営を続ければ、「知らなかった」では済まされないということです。
2. 加入していないとどうなる? 行政指導と追徴ペナルティの全体像
労働保険に加入していない事業所が発覚すると、行政(労働局・労基署等)は次のように動きます。
・過去に遡って保険料の算出(通常は最大2年分、例外有り)
・追徴金の賦課(悪質な場合は「追徴保険料」の追加)
・加入指導(改善命令)
・労災事故発生時の費用徴収
<事業主からの費用徴収の対象となる事故>
・事業主が故意又は入内な過失により労災保険の保険関係成立の届出をしていない期間中に生じた事故(保険給付金額の100%又は40%を乗じて得た額)
・事業主が一般保険料を納付しない期間中に生じた事故(保険給付金額の40%を乗じて得た額)
・事業主が故意又は重大な過失により生じさせた業務災害の原因である事故(保険給付金額の30%を乗じて得た額)
特に労災保険は業務災害を補償する公的保険であるため、未加入は行政の優先調査項目です。知らなかったから許されるという性質のものではなく、「義務違反」として扱われる非常に重い問題だという認識が必要です。
3. 【実例①】「従業員がケガした瞬間に発覚」――労災申請できない最悪のケース
もっとも多いのが、従業員がケガをした時点で初めて未加入が発覚するケースです。
例えば――
・現場で転落事故
・配送中の転倒
・作業中の骨折
事故が発生すると、本人は「労災申請して下さい」と言います。しかし、会社は労災保険に加入していない…。
この場合、本来は保険でカバーされるはずの治療費や休業補償について、国から費用徴収を受け、会社が莫大な負担を負うことになります。
未加入のまま従業員を働かせたとして行政調査が即スタート。
こうしたトラブルは中小企業で実際に頻発しています。
4. 【実例②】「雇用保険の確認書類が提出できない」――採用・退職時のリスク
未加入は、事故だけで発覚するわけではありません。
よくあるのが、退職者から「離職票を出してほしい」と言われたケース。
雇用保険に加入していない会社は離職票を作れません。
従業員は失業保険を受給する場合、受給に影響がある加入期間は最長20年となります。つまり会社は最長20年間遡って離職票を作成する義務が生じる可能性があるのです。当然行政機関としては、雇用保険料の引落し状況、賃金台帳、出勤簿等を確認することになります。仮に、20年間勤務した従業員の加入手続きを忘れていた場合に、『失業保険受給したいので、すぐに離職票ください』と言われた事を想像してください。経営、業務に多忙な社長様が、20年間の賃金台帳と出勤簿及び遡及手続きのための書類作成の手続きに要するための時間は何時間要することになるのでしょうか?
その結果――
・退職者から強いクレーム
・労働局に相談が入り発覚
・過去の在籍者まで遡って加入指導
・保険料+追徴金の支払い命令
採用時にも同様の問題が起きます。新規採用者から「雇用保険に入りたい」と言われて初めて加入していないことに気づくケースは非常に多いです。
5. 【実例③】「帳簿調査で一発アウト」――過去2年分の遡及と追徴金
労働局や労基署は、定期的に帳簿調査を行います。
賃金台帳や出勤簿を見ると、未加入はすぐに分かります。
その結果、最大2年分の保険料を遡って支払うことに加え、悪質な場合は追加徴収(追徴金)が課されます。
6. 【実例④】「労働保険未適用事業所への手続勧奨事業について」――何それ?
現在、労働保険の加入手続を行わず、保険料の納付を免れている事業場が多く存在していることから、保険制度の健全な運営と労働者福祉の向上等のため、未手続事業場に対する手続勧奨活動を行う「労働保険未手続事業一掃業務」を外部の受託事業者へ委託しています。
・ 一般社団法人全国労働保険事務組合連合会
<契約期間>
・ 令和6年4月1日~令和9年3月31日
受託事業者は、各地域の事業主団体等からの情報、情報誌、電話帳等を活用した独自調査により収集する未手続事業情報のほか、厚生労働省(都道府県労働局)から提供を受けた未手続事業情報により、各地域の「労働保険未手続事業一掃推進員」が、事業場を直接訪問し手続勧奨活動を行います。
手続勧奨活動は、労働保険制度(労働保険事務組合制度、労災保険の特別加入制度を含む。)の趣旨・概要について説明し、労働保険(労災保険)の成立、雇用保険の設置に関する適正な手続を行うことを勧奨します。 つまり簡単に言いますと。「厚生労働省」「都道府県労働局」「労働基準監督署」「ハローワーク」「外部受託業者」から労働保険手続きの手続きを至急行うよう指導を受ける可能性があると言うことです。
特に…
・指摘されても放置していた
・賃金を少なく申告していた
こういったケースは重く扱われます。
労災保険料率が高い業種(建設業など)は非常に大きな金額になります。
決算の遡及修正の可能性もありますので、融資を受けていて金融機関に決算書を定期的に提出している場合どのように説明するのでしょうか?仮に滞納処分にあった場合、『期限の利益喪失事由』に該当する可能性もあるのです。
7. 未加入だと“労災隠し”扱いに? 企業イメージを失う危険性
会社にとってもっとも危険なリスクは、金銭ではありません。
労基署は非常に厳しく対応します。
・企業名の公表リスク
・社員からの信頼喪失
・採用活動への影響
経営へのダメージは計り知れません。
8. 今すぐできる「未加入チェックリスト」
以下の項目が1つでも当てはまれば、未加入または手続漏れの可能性があります。
・労働者を雇ったときに「労働保険」の手続きをしていない
・雇用保険に加入していない従業員がいる
・パート・アルバイトの扱いで迷っている
・社員がケガした場合の対応ルールがない
・労働保険料の「年度更新」を毎年していない
・離職票を自社で発行したことがない
・退職者からクレームが来たことがある
・労災事故発生し労働者が休業した場合、労働者死傷病報告を届け出していない
1つでも不安があるなら、すぐに専門家に相談する価値があります。
9. 正しい加入方法と、急ぎの「過去分対応」――専門家に依頼すべき理由
・未加入の場合、
・現状の従業員の加入手続き
・過去2年分の遡及の計算
・労働局との対応
・年度更新の修正手続き
・雇用保険の適用チェック
これらを正確に処理する必要があります。
書類は多く、ルールも複雑で、誤りがあると再指導や追加負担の可能性もあります。
だからこそ、最短で正しく解決するには「社労士への依頼」が最も効率的なのです。
10. まとめ:未加入リスクは時間が経つほど高くなる
労働保険の未加入は、「事故が起きた時」「退職者が出た時」「調査が入った時」等いずれかのタイミングで必ず表面化します。
・従業員とのトラブル
・行政対応のストレス
・会社イメージの低下
・必要以上の時間の浪費
こうした後悔がつきまといます。
小さな会社ほど、労働保険は会社を守る保険として大きな意味を持ちます。
また最悪の場合、金融機関取引に影響があるものと言う認識を強くもたなければならないのかも知れません。運転資金が借りられない、設備資金が借りられない状況になったら、中小企業の発展の道がとざされてしますでしょう!
「この機会に見直しておこう」そう考えた社長こそ、トラブルを防げる社長です。
11.次回予告
いよいよ次回は最終回『労災・労働保険を味方につける!社労士が教える安全経営のコツ 『最終章。「怖い制度」から「会社を守る制度」へ。』になります。皆様が知りたいポイントをじっくり解説しますので必ず見てください。
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