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【入門講座・第2話】『年に一度の恐怖の通知』「算定基礎届」…それ、本当に合っていますか?(2025.9.19)

<< 社長が本業に専念するための「お守り」としての労務管理>>

 本日は第2回、『年に一度の恐怖の通知「算定基礎届」…それ、本当に合っていますか?』をテーマに、主に5人未満の企業様が抱える労務の課題とその解決策をわかりやすく解説します。

 

【そもそも「算定基礎届」とは?年に一度の超重要手続きを社労士が解説】

 毎年6月から7月にかけて、会社宛に年に一度届く「算定基礎届」。

正式には「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届」といい、従業員の社会保険料を決定するために必ず提出しなければならない重要な書類です。

『 なぜ恐怖の通知なのか? 』

それは、この一枚の書類が会社と従業員の社会保険料の金額を決定するからです。もし記載を誤れば、「会社の保険料負担が増える」「従業員から不満が出る」「年金事務所からの調査につながる」など、思わぬトラブルに直結します。つまり、算定基礎届は単なる事務作業ではなく、経営のリスク管理に直結する手続きなのです。

 

 【算定基礎届の提出はいつまで?期限遅れや未提出の怖いペナルティ】

 算定基礎届の提出期限は、毎年710日頃が目安です。提出先は日本年金機構(年金事務所)や健康保険組合になります。もし提出が遅れたり、未提出のままでいるとどうなるのでしょうか?

・保険料の決定ができず、従業員の給与計算が混乱する

・年金事務所等保険者からの督促・調査対象になる

・悪質と判断されれば過去にさかのぼっての調査やペナルティも

 

「担当者が忙しくて忘れていた」では済まされません。提出遅れは会社の信用を損ね、調査のきっかけにもなるのです。

 

 【なぜ計算が難しい?正社員・パート社員等で違う「標準報酬月額」3つの注意点】

算定基礎届で決められるのは「標準報酬月額」という数字です。社会保険料はこの標準報酬月額に基づいて計算されます。社長、しかし、ここに多くの落とし穴が潜んでいるのです。これは、実際の給与額を一定の幅に区分して決めるもので、社会保険料はこの標準報酬月額に基づいて計算されます。

 

注意点①:対象者の判定

  <対象者>

  ・ 531日までに資格取得し、71日現在在職中の社員

  ・ 71日以降に退職する社員等

  <対象外>

  ・ 61日以降に資格を取得した社員

  ・ 630日以前に退職した社員

  ・ 7月から9月に月額変更届を提出する予定の社員

 

注意点②:残業代・各種手当も含める

基本給だけでなく、残業代や通勤手当、役職手当なども報酬に含める必要があります。 記載漏れは誤算定の典型例です。

注意点③:パートや短時間勤務者の扱い

パート社員であっても、労働時間や勤務日数が一定以上あれば社会保険加入が必要です。 これを無視して算定から外すと、後日調査で発覚し追徴の対象になります。

注意点④:「前年と同じ」で済ませない

「前年通り」は危険な判断です。毎年必ずゼロベースで見直す必要があります。

 

 【「月額変更届(月変)」とは何が違う?セットで知るべき基礎知識】

   算定基礎届と混同されやすいのが「月額変更届(いわゆる月変)」です。

・算定基礎届年に一度、7月に提出。社会保険料を決める基本の手続き。

・月額変更届給与が大きく変動したときに随時提出。標準報酬月額を変更するた めの手続き。

 

例えば、昇給や降給、固定残業代の導入などで固定的な給与が大きく変わった場合、月額変更に該当するか確認しなければなりません。3ヶ月間の平均報酬額が現在と2等級以上差があり月額変更届を届け出していないと「実態と異なる社会保険料」が適用され続けてしまいます。結果として、後でまとめて修正され、多額の追徴や調整が発生するのです。算定基礎届と月額変更届は、経営者がセットで理解しておくべき最低限の労務知識といえます。

 

 【『要注意』決定した保険料はいつから給与に反映される?】

 算定基礎届を提出すると、その結果に基づいて標準報酬月額が決定され、9月分(10月納付分)から新しい保険料が適用されます。

ここで注意すべきなのは、給与計算への反映です。

「いつから変わるのか」を把握していないと、従業員への控除額がズレてしまい、給与明細と実際の納付額が合わなくなるケースがあります。特に、給与計算を外部に委託している場合や、担当者が頻繁に入れ替わる会社ではミスが多発します。最終的な責任は会社にありますから、社長自身が「算定は9月から変わる」「月額変更は、変更給与振込後4月以降から変わる」というルールを押さえておく必要があります。

 

 【社労士が見たよくある失敗事例とその対策】

 私が実際に相談を受けた中で、よくある失敗事例をご紹介します。

 事例①:月の途中での入社社員を入社月を含めて算定→保険料額が少なくなり後日徴収

事例②:通勤手当を報酬に含めず提出後日調査で発覚し、2年分の追徴

事例③:パート社員を算定から外す社会保険未加入が問題となり是正指導

事例④:現物給与(食費・住宅等現物給付)を除いて算定→保険料額が少なくなり後日徴収

事例⑤:昇給があったのに月額変更届を提出せず年金機構等保険者調査で発覚、まとめて 保険料負担

 いずれも「担当者が知らなかった」「前年と同じでいいと思った」といった理由から起こっています。対策はシンプルです。 社長が基本的な知識を押さえて、担当者に指示する。

提出前に社労士に確認する、または社長が確認事項について時間をかけて再チェックする。これだけで、ほとんどの失敗は防げます。

 

 

【よくある質問Q&A

 Q1. 提出を忘れた場合どうなる?

A. 年金事務所から督促がきます。悪質と判断されれば調査対象になる可能性が高まります。

 

Q2. 昨年と給与がほぼ同じなら、前年と同じで出してもいい?

A. いいえ。残業代や手当の有無で標準報酬月額は変わります。毎年必ず確認が必要です。

 

Q3. 小規模企業でも算定基礎届は必要?

A. 従業員を社会保険に加入させている会社であれば規模に関係なく必要です。

 

 

 【社長の最終チェックポイント】

 提出を担当者任せにせず、社長として最低限以下の点は確認しましょう。

・提出期限を守っているか

・残業代・手当・通勤費が正しく反映されているか

・パート・短時間勤務者の社会保険加入状況を確認しているか

・月額変更届が必要な従業員はいないか

・新しい保険料を給与に正しく反映する準備ができているか

このチェックを社長自身が行うだけで、労務リスクの多くを回避できます。

 

 

【まとめ】

 年に一度、当たり前のように届く「算定基礎届」。

しかし、この記事を通して、その一枚の紙が、追徴金や調査、従業員とのトラブルといった経営リスクに直結する「通知書」であることをご理解いただけたかと存じます。 社長がやるべきことは、このリスクをたった一人で抱え込むことではありません。正しい知識という「お守り」を身につけ、時には専門家の力を借りて、リスクを的確に管理することです。

 そうして生まれた時間と安心を、ぜひ会社の未来を創る「本業」に投資してください。私たち社労士は、そのための最強のパートナーです。

 

  

【次回予告】

  次回は、多くの社長がいつも思っている

 『 従業員が「辞める時」が一番大変!たった一枚の「離職票」の作り方 』

をテーマにお届けします。

基本的な考え方、法的なリスクや、見落としがちな落とし穴を解説しますので、ぜひ続けてご覧ください。

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