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【労災対策・第3話】労災認定されない!? よくある誤解と正しい対応法 『「これは労災にあたるのでは?」という誤解を解消』(2025.11.17)

3話 労災認定されない!? よくある誤解と正しい対応法『「これは労災にあたるのでは?」という誤解を解消』

 

 

1. 社長必見:「労災だと思ったのに認められない!?――その悪夢が起きる本当の理由

 

「労災申請が通るに決まっている」と思って申請したのに、まさかの“不支給決定”。

――そんな経験をお持ちの経営者は、意外と少なくありません。

 

労災保険(労働者災害補償保険)は、業務上または通勤中の災害に対して労働者を守る制度です。しかし実際には、「業務上のケガだと思っていたのに認められなかった」「通勤中の事故なのに通勤災害にならなかった」というトラブルが頻発しています。

 

その原因の多くは、“労災の仕組み”を正しく理解していないこと、そして“事前準備(社員教育を含む)が不足している事が要因です。

つまり、悪意ではなく「誤解」や「油断」及び「準備不足」で、結果的に従業員を守れず、会社がトラブルを抱えるケースが非常に多いのです。

 

 

2. そもそも「労災」とは? 認定のたった一つの原則

 

労災が認められるかどうかは、シンプルに言えば「業務が原因かどうか」です。

この原則は、業務起因性と業務遂行性という2つの視点から判断されます。

 

<業務起因性:そのケガや病気が仕事に関連して起きたか>

 (業務起因性が認められない事例)

 ・ 業務とは全く関係のない他人の手伝いを行った事による事故

 ・ 出張中に業務とは関係のない催し物を見物した帰途による事故

 

<業務遂行性:その時点で労働者が仕事をしていたか>

 (業務遂行性が認められる事例)

 ・ 用便・飲水等生理的行為による作業中断

 ・ 作業の準備、後始末、待機中

 ・ 事業所施設内での休憩中

 ・ 運動競技会等に参加中であっても、業務の性質が認められる場合

 ・ 出張中

 

この2つがそろわなければ、「業務上の災害」とは認められません。

つまり「会社の敷地内で起きた事故」でも、私的な行動によるものであれば労災にはならないのです。

 

社長の中には「勤務時間中にケガをした=労災」と思っている方も少なくありませんが、

実際は“勤務中かつ業務に起因している”ことがポイントです。

逆に、勤務外でも業務命令や職務上の行動であれば労災と認められる場合もあります。

 

 

3-1. 【ケーススタディ】「昼休みのケガ」「トイレでの転倒」業務中のグレーゾーン徹底解説

 

労災認定の現場では、判断が分かれる“グレーゾーン”が少なくありません。

たとえば――

 

・休みに社員食堂で転倒

・休憩中に喫煙所へ向かう途中でケガ

・トイレで足を滑らせての事故

 

これらは一見「私的な行動」ですが、職場施設を利用中の事故であり、業務に密接に関連していれば労災として認定される可能性があります。

逆に、昼休みに私用で外出中に起きた事故は、業務との関連性が薄いため不支給になるケースが多いです。

つまり「どこで」「何をしていたか」だけでなく、行動の目的が業務に関連していたかが鍵を握るのです。

 

 

3-2. 【ケーススタディ】「通勤中の転倒」はどこまで? "寄り道"したら""対象外?

 

次に多いのが「通勤災害」に関する誤解です。

「会社に行く途中でケガをしたから労災だろう」と考える方は多いですが、

実は通勤災害にも厳密な条件があります。

ポイントは「合理的な経路・方法」です。

自宅と職場を通常の経路で通勤している最中の事故でなければ、原則として認められません。

また、「労働者が、移動の経路を逸脱し、又は移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の移動は通勤としない。」とされております。

 例外としましては「逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であっていい体のものをやむを得ない事由により行うための最小限のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き通勤とする。」とされております。

 

たとえば――

・子どもを保育園に送るための寄り道通常は認められる(生活上合理的)

・コンビニで買い物経路上なら認められる場合あり

・友人宅に立ち寄る、カフェで休憩通勤経路を逸脱したと判断され、対象外

 

通勤災害は「日常の動線」に大きく左右されるため、

従業員にも“寄り道”がどこまで許されるのかを明確に伝えることが、企業リスクを減らす第一歩です。

 

 

3-3. 【ケーススタディ③】「1戸建て住宅・マンションでの通勤中の転倒」はどこまで?

 

例えば、1戸建ての住宅の玄関先での転倒による負傷については通勤災害の対象になるのでしょうか?この場合、「住居」とは労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、当該労働者の就業のための拠点となる場所をいい、一戸建での屋敷構えの住宅にあっては、門・門扉またはこれに類する地点が境界になります。つきましては本件の場合には通勤災害とは認められません。[参考通達:昭和49.7.15 基収第2110号]

 

マンションの場合にはどうなるでしょう?住居と通勤経路との協会、どこから通勤がスタートするかは、基本的には当該地点が一般の通行の用に供されている場所であるかどうかで判断されます。通常、マンション・アパートの場合には、自室の玄関ドアが住居と通勤経路の協会となり、玄関を出てからの負傷は、原則 通勤災害となります。[参考通達:昭和49.4.9 基収第314号]

 

 

4. "本丸"】労災が認定されない本当の理由――社長が(良かれと思って)やってしまう致命的な対応ミス3

 

実際に現場で多いのは、「社長や上司の対応ミス」で労災が認められなくなるケースです。

悪意があるわけではなく、“良かれと思って”取った行動が裏目に出てしまうのです。

 

① 「たいしたことない」と報告を遅らせる

軽いケガだと思い込み、会社として正式に報告しない、病院にも行かない。

その結果、証拠が消え、労災としての因果関係が証明できなくなります。

 ② 事実を曖昧に説明してしまう

「本人が自分で転んだ」「私的な行動かも」と曖昧な説明をしてしまうと、調査官は“業務関連性が不明”と判断します。

 ③ 会社都合を恐れて自己都合扱いにする

「労災になると会社に迷惑がかかる」と考え、健康保険で処理してしまうケース。

しかし、これは違法のリスクが高く、後日トラブルに発展する可能性が極めて高いです。

 

 

5. “守れる会社になるために――故発生時の「正しい初動対応」と「最強の記録」の取り方

 

事故が起きたら、スピードと記録がすべてです。

・まず安全確保・応急処置

・現場と事故状況を写真・メモで記録

・第三者が絡む事故の場合には、第三者についても概要を把握しておきましょう。

・発生時刻・場所・業務内容を正確に残す

 

この3つを徹底するだけで、後の調査が格段にスムーズになります。

また、勤務表・作業日報・上司の指示履歴など、“業務との関連を示す書類”を残すことも重要です。これがあれば、調査の際に「業務起因性」の証拠となり、会社と社員の双方を守る武器になります。

 

<<病院選びで事務の手間が決まる? 労災指定病院を利用すべき理由>>

・緊急時以外はなるべく「労災指定病院」へ行かせることにしましょう。労災指定病院なら「現物給付(窓口負担なし)」で、書類もシンプル(様式第5号)。

・指定外だと「現金給付(一旦立替)」になり、後日の請求手続き(様式第7号・領収書管理など)が複雑になります。

・労災指定病院がどこにあるかよくわからない場合には、「厚生労働省の検索サイトで自社の近くの指定病院を探しておきましょう」と案内する。

<<労災指定病院検索:https://rousai-kensaku.mhlw.go.jp/>>

 

 

6. まとめ:「誤解」を「確信」に変え、会社を本当のリスクから守るために

 

労災認定は、制度の理解不足や適切に初動対応を取らない事で不支給になることがあります。しかし、正しい知識を持ち、事故の際に適切に対応できれば、会社も従業員も守れます。

労災は「起きたら終わり」ではありません。

“どう対応するか”で、会社の信頼と将来が変わります。

 

 

7. 次回予告

 

次回は「第4    労働保険に加入しないとどうなる?ペナルティと後悔の実例  『「ウチは関係ない」と思っていたら。未加入リスクと行政対応の実例を紹介。』をテーマにお届けします。現場で混乱しないための、実践的な対応マニュアルを解説します。

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