【入門講座・第3話】『従業員が「辞める時」が一番大変!』たった一枚の「離職票」の作り方(2025.9.26)
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本日は第3回、『従業員が「辞める時」が一番大変!たった一枚の「離職票」の作り方』をテーマに、主に5人未満の企業様が抱える労務の課題とその解決策をわかりやすく解説します。
【「円満退職」のはずが…なぜ従業員が辞める時が一番のトラブル発生源なのか?】
経営者の多くが経験する悩みのひとつが、「退職の場面で思わぬトラブルが発生すること」です。寂しい気持ちと、次の人材をどうしようかという不安の中で、追い打ちをかけるように発生するのが労務トラブルです。在職中は問題なく働いてくれた従業員でも、退職となると「有給消化」「残業代未払い」「離職理由」などを巡って会社と意見が食い違うケースが少なくありません。
中でも特に多いのが、「離職票」を巡るトラブルです。
退職者から「早く送ってほしい」「内容がおかしい」といったクレームが寄せられ、場合によってはハローワークや労働基準監督署に相談されることも。
つまり「従業員が辞める時」こそ、会社にとって一番デリケートで、労務リスクが表面化するタイミングなのです。
【そもそも「離職票」とは?退職者のその後の生活を左右する超重要書類】
「離職票」とは、従業員が退職後に失業給付を受けるために必要となる書類です。
正式には「雇用保険被保険者離職票」と呼ばれ、会社が作成してハローワークを通じ退職者へ交付する義務があります。離職票に記載される主な内容、その他注意点は以下の通りです。
<必ず守るべき法律上のルール>
・雇用保険の加入期間、退職日、賃金の状況、離職理由の記載
・退職した翌日から起算して、10日以内に管轄職安に届出
<【特に注意】専門的な判断が求められるポイント>
・有期雇用者の最終判定
・特定受給資格者、特定理由離職者の判断
・退職後の育児休業給付等への影響
ここに誤りがあると、退職者が失業給付を受けられなかったり、給付額が減少したりする可能性があります。その結果「会社のせいで生活に困窮した」とクレームに発展しかねません。
「たった一枚」と思われがちですが、実は退職者の人生を左右する極めて重要な書類なのです。
【なぜ作成が大変なのか?離職票に潜む3つの落とし穴】
離職票の作成は、単なる事務作業ではありません。実務上、次の3つの落とし穴があります。
① 離職理由の判断が難しい
「自己都合退職なのか、会社都合退職なのか」を誤って記載すると、退職者からの不満が爆発します。
離職票は退職者から依頼を受けた場合、原則として10日以内に交付する必要があります。遅れると「ハローワークに失業給付申請に行けない」と苦情の原因になります。
賃金額や雇用期間などを誤ると、退職者が不利益を被るだけでなく、会社の信用低下にも直結します。
このように、離職票は「正確さ」と「迅速さ」が求められるため、社長や担当者にとって非常に神経を使う業務です。これらのプレッシャーに、社長が一人で対応する必要はあるのでしょうか?
【 最大の難所!「自己都合 vs 会社都合」離職理由の選択が助成金にも影響?】
離職票作成の最大の難所は、「離職理由」の記載です。
・自己都合退職:従業員が自ら辞めるケース。失業給付までに一定の給付制限期間があり、給付額も制限されます。
ここで「自己都合であるべきものを会社都合と記載してしまった」「逆に会社都合を自己都合と誤記した」という事例は少なくありません。
しかも離職理由の記載は、会社の助成金や雇用保険料の計算にも影響するため、誤りは経営にも直結します。
経営者が安易に「まあ自己都合でいいだろう」と判断するのは非常に危険です。
【<社労士は見た>離職票を巡る、リアルな失敗事例とその悲惨な結末】
実際に私が実際に経験した事、耳にしたケースをご紹介します。
事例①:自己都合退職なのに会社都合と誤記 → 退職者が多額の失業給付を受給。後に発覚し、会社に是正指導。
事例②:離職票の発行が遅れ、退職者が「生活できない」とハローワークに何度も苦情を入れる。
事例④:10年前に退職した元従業員から突然の電話。「今からでも離職票は作れますか?」→ 
過去の膨大な資料を何時間もかけて探し出し、なんとか作成することに…。
これらは決して珍しい話ではありません。
「たった一枚の離職票」が原因で、会社が大きなダメージを受けることは十分にあり得るのです。
【<5ステップで解説>離職票発行までの具体的な手続きと流れ】
離職票作成の基本的な流れを整理すると、以下の5ステップです。
(1)退職者からの離職票交付依頼を確認
(2)会社で必要書類を準備(雇用保険被保険者資格喪失届、賃金証明など)
(3)ハローワークに提出(原則10日以内)
(4)ハローワークで審査・離職票交付(離職票が会社へ戻る)
(5)会社から退職者へ渡す(現在は、マイナポータル電子交付もあり)
一見シンプルですが、「離職理由」や「賃金額」の記載が正しいかどうかで、会社のリスクは大きく変わります。
【よくある質問Q&A(退職者・会社双方から寄せられる疑問)】
Q1. 離職票は必ず発行しなければならない?
A. 退職者が希望した場合に限り必要です。59歳未満で希望がなければ発行不要です。
 但し、上記事例④のような事もあるので、可能な限り離職票を交付しておいた方が安全なものと考えます。
Q2. 離職理由は会社が一方的に決めていいの?
A. いいえ。客観的事実に基づき、正確に記載する必要があります。虚偽の記載はトラブルの原因になります。また離職理由を虚偽記載をした場合には、不正受給と判断され罰則等を受ける可能性があります。
Q3. 社長が作成してもいいのか?
A. 誰が作成しても良いですが、労務知識がないと誤りが多発します。詳しい社員・社労士に任せた方が安心です。
【社長が最終的にチェックすべき4つの確認事項】
離職票の作成を担当者や社労士に任せる場合でも、社長が最終的にチェックすべきポイントがあります。
(1)離職票の発行が退職日から10日以内に進んでいるか(管轄職安の繁忙時は除く)
(2)離職理由が事実に即しているか(自己都合/会社都合の確認)
(3)賃金額や雇用期間の記載に誤りがないか
(4)退職者とのトラブルが発生していないか
これらを押さえるだけで、不要な労務リスクを大幅に減らすことができます。
【まとめ:離職票は“たった一枚”でも会社の信頼を左右する】
「従業員が辞める時」は、会社にとって労務リスクが最も表面化する瞬間です。
特に離職票は、退職者の生活を左右するだけでなく、会社の信用や経営にも影響する大事な書類です。離職票を甘く見て「担当者に任せきり」「自己判断で記載」としてしまえば、後に大きな代償を払う可能性があります。
だからこそ、社長自身が基本的な知識を押さえ、最終チェックを怠らず、必要に応じて社労士のサポートを活用することが最善策です。
離職票は“たった一枚”でも、会社の信頼と経営を守る鍵になるのです。
【次回予告】
 次回は、多くの社長様がいつもお考えになっていらっしゃいます
基本的な考え方、見落としがちなところを解説しますので、ぜひ続けてご覧ください。
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